「年金はあてにしていません」という人の老後資産形成方法とは

年金 2024/03/08

「老後のために資産形成をしたい。」と公的保険アドバイザーである筆者のところに相談に来る人は少なくありません。ところが一方で「年金はあてにしていません。」と言う相談者も一定数います。年金をあてにしていない老後の資産形成は可能なのでしょうか。年金をあてにしていないけれど、老後のために資産形成をしたい相談者の事例をお伝えします。


老後に必要な金額はいくら?

京子さん(46歳)は、貯蓄をしたいけれど、いくら積み立てれば良いか分からないと相談に来られました。貯蓄の目的を聞くと、主に老後資金のためとのことです。そこで、筆者は老後の必要金額を見積もることにしました。

必要金額を見積もるには、まずは老後の収入である年金額を計算する必要があります。そこで年金の話をしたところ「私、年金はあてにしていないんですよね。」と言います。年金をあてにしていないのであれば、老後資産は全額自分で準備しないといけません。

そこで、京子さんと老後の生活費を見積もることにしました。京子さんは「家賃も含めて、老後に1ヵ月30万円あれば生活できそうです。」と言います。仮に老後を65 〜95歳の30年とすると、生活費の総額は30万円×12ヶ月×30年=1億800万円です。

1億という数字を見て、あっけにとられている京子さんでしたが、今まで、投資信託をコツコツ積み立ててきたため貯蓄は1,500万円としっかりあります。家族は夫婦2人で、共働きのため今後も順調に貯蓄は増えていくと思われます。とはいえ、65歳まであと19年です。退職金もないとのことですから、残りの9,300万円は全額自分で準備しなければいけません。

今後も投資信託で資産形成をするとして、運用利回り3%で毎月の必要積立額を計算したところ約26万円になりました。その金額を見て、京子さんは「さすがに毎月26万円の積立は無理です。」と言います。であれば、やはり年金を考えないと生活できそうにありません。


自分の年金額を知る

そこで、筆者は京子さん夫婦の年金額を計算しました。2人とも会社員経験が長いため夫婦合わせて税金と社会保険料を差し引いても月32万円ほど受け取れそうだと分かりました。

*自分の年金を計算する方法は、こちらのページ

https://siaa.or.jp/knowledge/cate2-01

京子さんは、年金額を聞いて「そんなに、たくさんあるんですか?」と言います。自分の年金額を聞いて、「そんなにたくさん?!」と言う人は少なくありません。年金は少ないという偏った情報が多いため、自分の年金も少ないのだろうと、思い込んでしまっているのです。

老後の年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の主に2種類です。老齢基礎年金は一定額ですが、老齢厚生年金は厚生年金に加入して働いた期間や年収に比例します。京子さんご夫婦は、これまで会社員としてしっかり働き、これからも働くからこそ、この年金額になるのです。

さて、必要と思われる生活費が30万円ですから、医療費や介護費、その他臨時費用は別途見積もる必要があるとしても、年金だけで生活ができるレベルの金額であることが分かりました。

今後の老後資産形成についても、現在の貯蓄1,500万円があることを考えると、がむしゃらに貯蓄しないといけないというわけではなさそうです。ずいぶん現実的な数字に落ち着きました。京子さんは、老後資金対策について具体的な数字を見ることができ、むしろ、年金額を知ることができて安心できたと言っていました。


自分の老後を安心させるために年金制度の理解が必要

年金制度については誤解を与える情報が多々あります。しかし、誤解していると誤った資産形成、家計運営になってしまいます。年金は少ないと思っている人が多いですが、年金が少ないかどうかは働き方によって変わりますから、人によって金額が違います。

そもそも、年金の財源は主に現役世代が負担している保険料です。もし年金を増やすのであれば現役世代の負担増につながります。「保険料負担は少なく、受け取る年金額は多く」は、「お菓子をたくさん食べてダイエット成功させろ」と言っているようなものです。

年金制度は全世代に公平な制度であるために負担する側と受け取る側のバランスを大切にしています。とはいえ、時代が変化するとそのバランスも取りづらくなります。そこで、世の中の変化に合わせて年金制度も変化させるため、5年に一度、その健全性が検証されています。

その結果の一つとして、厚生年金の加入者を増やし、年金の支え手を増やす改正が現在、段階的に行われているところです。そのほかにも年金制度を持続可能な制度にするため、さまざまな改正が行われています。

年金制度を信じないこと自体が年金制度を揺るがしかねません。私たちが年金制度を知り、保険料を納めていくことこそが年金制度を持続可能にさせる方法になるでしょう。そうすることによって自分自身の老後も安心できるものにすることができます。

 

公的保険アドバイザー
前田菜緒