年金は運用されている。運用の仕組みと実績を解説

年金 2023/02/09

公的年金が運用されていることについて「なんとなく聞いたことがある」という人は少なくないかもしれません。しかし、運用の仕組みや運用状況については、知らない人も多いのではないでしょうか。年金の運用について知ると、年金不安が和らぐかもしれません。今回は、年金の運用についてお伝えします。
 

年金財源の仕組み

高齢者が受け取っている年金の財源は、現役世代が納めた保険料、国庫負担、積立金です。現役世代が納めた年金保険料のうち、年金給付に利用されなかった一部は積み立てられ、その積立金が運用されています。令和2年度の年金財政は、下記の図の通りでした。
 
出典:厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方] 第4 公的年金制度の財政方式


年金は働く世代が高齢者を支える仕組みですが、高齢者を支えるために現役世代が納める保険料が増えると、現役世代の負担が大きくなってしまいます。そのため、現在は負担する保険料には上限が設けられています。保険料水準が限られているため、支出が保険料収入や国庫負担を上回る場合は、積立金を活用し給付と負担のバランスを取っています。

積立金は運用されながら取り崩されているわけですが、最終的には約100年後に年金給付1年分程度が残るよう計画されています。
 

積立金はどのように運用されている?

年金積立金の運用目標は「賃金上昇率+1.7%」です。目標値に「賃金上昇率」が登場するのは、年金給付も賃金水準に連動する仕組みだからです。そして、運用収益は賃金上昇率以上得る必要があるという考えから、賃金上昇率プラスアルファが目標として設定されています。

1.7%という目標値は2019年の財政検証(年金の健康診断)で前提とされた運用利回りの最大値で、2020年〜2024年の中期目標として定められました。そして、1.7%の利回りを達成できるよう運用内容が決定され、実行されています。

運用内容は、国内債券25%、外国債券25%、国内株式25%、外国株式25%と4つの資産に均等に分散され運用されています。ちなみに、1.7%という目標値は2010年〜2015年の中期目標から定められていますが、当時の運用資産は国内債券が中心だったため、1.7%を達成することは困難との判断から運用内容が2度変更され、現在に至っています。
 

運用実績はどうなっている?

1.7%の運用利回りを目標に年金は運用されていますが、実際のところ、目標通り運用されているのでしょうか。運用状況は年に4回公表されていますが、直近で2023年2月3日に2022年第3四半期の運用状況が公表されています。

それによると、2022年10〜12月の運用収益は▲1.9兆円、収益率は▲0.97%でした。2021年度の第4四半期以来、収益率はマイナスのため四期連続マイナス運用ということになります。

メディアでも「赤字」「マイナス運用」などと報じられていますから、不安になってしまいますが、実は、2001年〜2021年までの実績でいうと運用利回りは3.78%で、目標である1.7%を上回っています。累積の収益額も+105兆円という大きさです。

年金は長期を見据えて運用されています。したがって、数年だけの運用状況を見て運用の良し悪しを判断することはできません。メディアなどで赤字運用と報道されたとしても、対象の運用期間はどの程度か着目し報道内容を判断する必要があるでしょう。
 

年金が積み立てられ運用されている理由

年金が積み立てられていること、積立金が年金給付に充当されている仕組み、運用目標など、すべてに根拠があります。それは現在から将来まで、安定した年金財政を実現するためです。

年金の仕組みは難しいため、批判的な報道も多く、不安だけが先行してしまいがちですが、年金財政安定のためにきちんと作戦が立てられ、実行されていることを知ると、年金に対する見方は変わるのではないでしょうか。

 

公的保険アドバイザー 前田菜緒