2022年1月~4月の公的保険改正をまとめて解説
2022年がスタートしました。今年もさまざまな公的保険の改正が予定されていますが、まずは2022年1月〜4月に改正される公的保険について解説します。
2022年1月1日スタート
(雇用保険)マルチジョブホルダー制度の新設
雇用保険は、メインの勤務先での労働条件が1週間の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある等の要件を満たす場合に適用されます。これに対して、今回新設されたマルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、勤務する複数事業所のうち2つの事業所での勤務を合計して、以下の要件を満たす場合に、雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度です。
<要件>
・複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
・2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の 所定労働時間が20時間以上であること
・2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
この制度によって、マルチ高年齢被保険者が失業した場合は、要件を満たせば、高年齢求職者給付金を受給できるようになります。ただし、マルチジョブホルダー制度は、マルチ高年齢被保険者としての適用を希望する本人が手続を行う必要があります。申し出を行った日から被保険者となり、遡ることはできません。希望する場合は住所地のハローワークで手続きを行いましょう。
(健康保険)傷病手当金の支給期間の通算化
治療と仕事の両立のため、傷病手当金の支給期間が支給開始日から「通算して」1年6ヵ月支給されることになりました。改正前は、支給開始日から1年6ヵ月間支給される制度だったため、欠勤(療養中)→出勤→欠勤(療養中)と、出勤と欠勤を繰り返した場合、途中で出勤した期間は傷病手当金が支給されていないにもかかわらず、1年6ヵ月にカウントされ、「支給開始日から」1年6ヵ月が経過すると、傷病手当金の支給は終了してしまっていました。
今回の改正により、途中、出勤して傷病手当金が不支給の期間があったとしても、その期間は1年6ヵ月に含めず、支給した期間トータルで1年6ヵ月まで支給されることになりました。
2022年4月1日スタート
(育児介護休業法)育児休業を取得しやすい雇用環境整備と有期雇用労働者の休業取得要件緩和
育児休業取得促進のため、事業主の雇用環境整備が義務化されます。具体的には育児休業に関する研修の実施、相談体制の整備、自社の休業取得事例の収集・提供、方針を周知する必要があります。
さらに、本人や配偶者が妊娠・出産したと申し出があった労働者に育児休業制度やその申し出先、育児休業給付金や社会保険料の取り扱いについて周知しないといけません。
次に、有期雇用労働者の育児休業や介護休業の取得要件について「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が廃止されます。ただし、労使協定を締結した場合には、事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外することは可能です。
(改正労働施策総合推進法)
パワハラ防止法の猶予期間終了。中小企業も対象に
公的保険とは違いますが、番外編として・・・
大企業については、すでに2020年6月よりパワーハラスメント防止措置を取ることが義務化されていますが、今回、2022年4月1日から中小企業にもパワーハラスメント防止措置が義務化されます。
(厚生年金保険法)
65歳以上の被保険者に在職定時改定の導入
65歳以上で厚生年金に加入すると、毎年10月分から老齢厚生年金の改訂が行われるようになります。改正前は、退職した時や70歳になった時に限定して、老齢厚生年金が改定されていました。つまり、働いて厚生年金が増えたとしても、それを実感できるのは、退職した時や70歳になった時に限定されていました。
しかし、今回の改正により、働いて年金が増えると、その増えた厚生年金は毎年、自分の年金額に反映されるようになるため、働きながら年金が増えたことを実感できるようになります。
(厚生年金保険法)
60歳~64歳の在職老齢年金・支給停止基準額の引き上げ
働きながら年金を受け取ると、年金額の一部、あるいは全部が支給停止されることがありますが、その支給停止となる基準額(60〜64歳)が引き上げられます。そもそも、厚生年金は、高齢で退職して収入がなくなった時の生活を保障するための制度なので、「退職」が年金受け取りの条件です。
しかし、働いていても給料が高くない場合もあります。そこで、働いていても年金を支給しますよというのが「在職」老齢年金です。よく在職老齢年金は、年金カット制度と表現されていますが、実はその逆で「退職」が条件だけど、「在職」していても年金を支給しますという制度なのです。
とはいえ、年金が支給停止されると就労意欲が低下してしまいます。そこで、停止となる基準額を28万円から47万円に引き上げられることになりました。具体的には、老齢厚生年金と賃金の合計が47万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。
以上が2022年1〜4月に改正される公的保険です。働き方と大きく関係する改正ばかりですから、改正の影響を知った上で働き方を考えると、自分に合った働き方のヒントを得られそうです。
公的保険アドバイザー
前田菜緒