出産、育児の時の収入ってどうなるの?

税・社会保障 2021/11/01

出産、育児に関する公的保険制度は何度かこの紙面でもお伝えしておりますが、実際に出産、育児に追われてしまうと自分のことでも忘れてしまうことが多くあります。新しい命に対する今後の将来設計と同時に、改めて公的保険の有用性を考えるいい機会ともいえます。
今月は、出産、育児にまつわる公的保険と収入面について考えてまいります。

出産や育児休業に関する公的保険は次のような制度が適用されます。
まず出産育児一時金ですが、一児につき42万円(産科医療補償制度に加入されていない医療機関等で出産された場合は39万円)が支払われます。近年は産科医療補償制度対象の医療機関も増えたことにより、実際に自己負担で分娩費用を支払うことなく、医療機関から請求していただけますので、差額のみ負担となりお財布にも優しい制度といえます。
次に、出産手当金ですが、産前6週前から産後8週までが支給対象期間となります。出産予定日に生まれると96日間ですが、予定日より前になると短縮され、予定日後に生まれた場合はその分延長になる制度で、実際に出産した後に請求することになります。支給額は、過去1年間の標準報酬月額の1日分に対する3分の2が支払われます。この二つは健康保険から支払われます。

もう一つの給付である育児休業給付金は産後休業が終了した翌日から1歳に達するまでが支給対象期間で雇用保険から支払われます。
この「1歳に達する」というのが少しポイントになります。
本来誕生日は、実際に生まれた日を指すことが多いと思いますが、誕生日に関する法律(年齢計算ニ関スル法律)では、誕生日の前日がいわゆる「達した日」となり、何歳に達したという考え方になってきます。この法律、なんと明治35年に施行されている古い法律というところも驚きですね。

では出産、育児にかかる期間の収入も気になるところかと思います。産前産後休業から育児休業まで、最短で12週(産後6週を過ぎた時点で本人が希望して、医師が支障なしと認めた場合)、最長でも2歳に達するまでの間は賃金の支払いはないことが原則になります。その間は、前述の給付金などで生計を補うことになりますが、収支のバランスはどのようになるのか気になる点ですので、ざっくりとした計算になりますが考えてみましょう。

月給30万円、扶養親族なしと仮定した場合、通常の手取り金額は約25万円になります。これを、公的保険制度を活用した場合は、出産手当金約20万円、その後の育児休業給付金が休業開始から6ヶ月間は約20万円、その後は約15万円となります。ざっと計算すると休業前の賃金の約8割が支払われると考えると、労災の休業補償に似ていますね。
休業した場合、健康保険料などが免除になるためその負担がなくなる分、手取り金額の開きは賃金が支払われないという事実からするとインパクトはそれほど大きくないことがおわかりいただけると思います。
若干の家庭収入は目減りしますが、保険料がその期間免除されるという公的保険はここまで守ってくれる安心できる制度ということです。また、この期間は保険料免除であっても将来の年金にはきちんとカウントしてもらえますので、さらに安心ということになります。
しかし、保険料免除については問題点もあり、育児休業中に賞与が支払われる場合、いわゆる「年末育休」などといわれ、賞与が支払われる時期に育児休業を取得することで保険料免除を狙う行為です。育児休業月にボーナスが支払われる場合でも保険料の免除は続きますので、その時期をピンポイントで取得する動きなのですが、制度の主旨に反しますのでぜひ検討されないようにいただくことと、2022年にはこのあたりも改正されることになっていますのでご確認ください。

育児にはさまざまなことが起きることでしょう。母体保護も重要ですし、赤ちゃんの体調も気になるところです。少しでも金銭面での不安が解消できるとすれば公的保険の存在意義が発揮されるということを再認識いただけますと幸いです。

 

公的保険アドバイザー協会
理事 福島紀夫