離婚時の年金分割と年金額を知る方法

年金 2021/10/11

離婚時には年金分割の制度があることを知っている人は多いですが、どのような仕組みなのか正しい認識を持っている人は多くありません。また、誤解している人も多くいます。そこで、離婚時の年金分割について、モデル夫婦を例に内容と手続き等お伝えします。

 

<モデル夫婦>

2000年結婚

夫:婚姻中は会社員(国民年金 第2号被保険者)

妻:婚姻中は夫の扶養内でパート勤務(国民年金 第3号被保険者)

 

最初にお伝えしておくと、年金には国民年金と厚生年金の2種類がありますが、分割対象となるのは厚生年金です。国民年金は、20歳になると国民全員が加入しますから分割の対象にはなりません。

また、年金分割は離婚をした日の翌日から2年を経過すると請求できません。この点をまず押さえておきましょう。


年金分割には2種類ある

年金分割には、結婚中に第3号被保険者期間がある人に関係する3号分割と、相手が結婚中に厚生年金に加入していた場合に関係する合意分割があります。それぞれの違いについて詳しく確認しましょう。


◆3号分割

3号分割とは、2008年4月1日以後、自分自身に第3号被保険者の期間がある場合、その期間中の相手方の厚生年金の記録を分割できる制度です。モデル夫婦の場合、妻は第3号被保険者ですから、夫の厚生年金の記録を分割できます。ただし、結婚は2000年ですが、分割対象となるのは2008年4月1日以後の記録ですから、結婚してから2008年3月31日までの記録は3号分割の対象ではありません。

 

3号分割の場合、当事者の合意は必要ありません。妻が離婚後に年金事務所に「標準報酬改定請求書」という書類に戸籍謄本等を添付して手続きを行えば年金を分割できます。分割割合は2分の1です。 


 

◆合意分割

合意分割は夫婦間の合意があるとき、または、合意がなければ家庭裁判所への申し込みによって行うことができます。分割対象となるのは婚姻期間中の厚生年金の記録で、分割の割合は5割が上限です。この夫婦の場合、2000年から2008年3月31日までの夫の厚生年金の記録について「夫婦で半分に分けよう」と合意すれば、分けることができます。

 

なお、この夫婦の場合、妻が厚生年金に加入した期間はありませんが、もし妻にも厚生年金加入期間がある場合、分割の方法は婚姻期間中の厚生年金の記録が多い方(一般的には給料の高い方)から少ない方に対して分割がされます。妻の方が、給料が高かったのであれば、夫の年金記録を請求できず、逆に夫に妻の分の年金記録を分けることになります。

 

このように年金分割とは年金の記録を分けることを言います。金額を分けることではありません。老後の年金は記録をもとに計算されるため、相手の記録を自分の記録にすることで、自分自身の年金額が計算されることになります。その結果、離婚後、夫が死亡したとしても妻の年金には影響ありませんし、夫が何歳から年金を受け取ったとしても妻の年金受け取りに何ら影響はありません。ただし、年金の受け取りには受給資格期間が10年以上必要ですが、分割された期間は受給資格期間には含まれません。


分割される年金額を知る方法

離婚を考えているなら、分割によって自分の年金がどれだけ増えるのか気になることと思います。それを調べるためには年金事務所に行き、「年金分割のための情報通知書」を請求しましょう。この通知書は相手に知られることなく1人で請求することができます。

 

ただし、分割後の年金見込み額が分かるのは請求者が50歳以上で見込み額の照会を希望した場合です。50歳未満なら厚生年金記録が記載してあるだけなので、通知書を見ても年金額は分かりません。しかし、下記「対象期間標準報酬総額」欄の数字を使って計算をすれば、分割後の年金の目安が分かります。

「日本年金機構『年金分割のための情報通知書』の見方」をもとに筆者作成

 

下記計算式にAとBの金額をあてはめてください。

(A+B)×50%(半分ずつ分割する場合)× 0.55%=分割後の年金額

年金額を算出すると、離婚後の老後の生活をイメージしやすくなります。


年金分割の平均額は約3万円

厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、離婚による年金分割によって、増えた年金額は合意分割の場合は約3万円(3号分割含む)、3号分割のみの場合約5千円です。離婚したとしても、老後は年金分割すればどうにかなるという金額ではないことが分かります。

 

離婚すると年金はどうなるのだろうと考えているのであれば、まずは「年金分割のための情報通知書」を請求して、年金額を確認してみてください。そして、その結果を踏まえて今後のライフプランを考えてみてはいかがでしょうか。「離婚したい」その気持ちだけでは、厳しい現実しか待っていないことが多いものです。この機会に年金情報に加えて、離婚後の人生にかかるお金について考えておくと、「失敗する離婚」を回避できるかもしれませんね。

 

公的保険アドバイザー 前田菜緒