年金未納期間が多い夫が死亡、遺族の生活はどうなる

年金 2020/12/14

「年金は老後のための制度」そのようなイメージを持っている人は多いと思いますが、必ずしもそうではありません。年金は被保険者が死亡した時や障害状態になった時にも支給されます。

では、年金未納期間が多い人が亡くなったら、遺された家族はどうなるでしょうか。まして生命保険にも加入していなかったら・・・今回は、生命保険に加入せず、年金未納期間も多い夫をなくした美幸さん(仮名)の遺族年金についてお伝えしたいと思います。

 

52歳夫の年金加入期間は11年

美幸さんは49歳の会社員で、高校2年生の娘がいます。美幸さんには離婚歴があり、亡くなった夫とは7年前に子連れで再婚をしました。当時、夫は45歳、会社員でしたが会社員人生は4年しかなく、その会社に入るまでは派遣やアルバイトで生活をしていました。 そのため収入が少なく年金を払っていませんでした。

正社員として働き始めてからは、厚生年金に加入していますが、 亡くなったのが52歳ですから、年金加入期間は11年ということになります。 美幸さんは、以前から夫の年金加入期間が短いことを心配していましたが、心配していたのは老後のことでした。「夫がほとんど年金に入っておらず、老後のことを思うと毎日不安でした。」美幸さんはそう言います。

結局、夫は老後を迎えることなく亡くなったわけですが、 年金は加入者が万一の場合にも支給されます。しかし、美幸さんは、万一の時にも年金が関係するとは想像もしていませんでした。 さらに、夫が入っていた生命保険は小さな死亡保障がついた医療保険のみ。生命保険からは、死亡保険金として5万円を受け取っただけと言うことです。

美由紀さんは、「夫が亡くなったらという事を真剣に考えた事はありませんでした。こんなことなら二人で考えておくべきでした」とおっしゃっていました。

 

年金加入期間が短くても遺族年金は受け取れる

では、美幸さんは遺族年金を一体いくら受給できるのでしょうか。遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。遺族基礎年金は18歳までの子、子のある配偶者が受け取ることができ、遺族厚生年金は妻、子、妻死亡時55歳以上の夫(支給は60歳から)などが受け取ることができます。

支給要件の一つに、保険料納付済期間が年金加入期間の3分の2以上あることという要件があります。夫の保険料納付済期間は、加入期間の約3分の1ですから、この要件が適用されれば、美幸さんは遺族年金を全く受け取れないことになります。しかし、令和8年4月1日以前の場合は、保険料の滞納が直近1年以内になければ、遺族年金を受け取ることができます。そのため、美幸さんは、遺族年金を受け取ることができたのです。

年金額は、遺族基礎年金は加入期間にかかわらず金額が一律ですから、子ども1人の場合だと年間約100万円を受給できます。一方、遺族厚生年金は、給与や加入期間によって異なります。

厚生年金の加入期間が短い夫の場合、遺族厚生年金も少ないと思われるかもしれませんが、そうではありません。なぜなら、厚生年金の加入期間が25年未満だとしても25年加入したものとして計算するルールがあるからです。

美幸さんの夫は、11年しか被保険者期間がありませんでしたが、25年加入したものとして年金が計算され、結局、美幸さんは遺族厚生年金を約40万円受け取ることができました。

なお、遺族基礎年金については来年お子様が18歳ですから、18歳の3月31日を経過すると、支給停止となり、代わりに遺族厚生年金の奥様手当である中高齢寡婦加算が上乗せされます。金額は約60万円ですから、遺族厚生年金と合わせると約100万円になります。

美幸さん自身も正社員として働いていますから、遺族年金と給料があれば生活自体に不自由はありません。ただ、これからお子さんは大学受験を控えていますから、進学費用を生命保険で準備しておくべきだったと悔やんでいるようでした。

 

年金には生活を守る機能があることを忘れてはいけない

美幸さんは、「夫の年金加入期間が少ないにもかかわらず、これだけ遺族年金があるとは知りませんでした。非常に助かります。」とおっしゃっていました。美幸さん自身は年金を未納していませんが、シングルマザーになったと言うことで、娘のために万一のことがあった際にも生活できるよう、今一度、自分自身の年金記録を確認しておこうとおっしゃっていました。

年金は多くの人が老後に受け取るものでしょう。しかし、万一の際にも生活を支えてくれる制度ということを忘れてはいけません。未納すると自分で準備すべき金額が増えます。美幸さんは、娘が20歳になったら未納だけはしないように伝えていきたいと思います。と、おっしゃっていました。

 

公的保険アドバイザー 前田 菜緒