60歳代前半の賃金設計に関する改正

労働・雇用 2020/11/01

高齢者の雇用促進については、年金制度の改革を含め計画的に進められています。働き方改革の中では労働時間の削減などが取り上げられていますが、人口の減少に歯止めがかからない以上、働き手を増やすための対策も同時に進んでいるといえます。労働力人口は必ず減少していきますので、若年層、女性、そして高齢者雇用の活用を視野に入れた人材活用が企業には求められます。また、企業が対策を取るのと同時に、働く側もそれに呼応していくことも求められます。
今月は、70歳まで働く時代に備えて高齢者雇用の賃金についての改正項目が発表されましたので、労使双方に求められる賃金設計がどのようになるかを考えてまいります。

今年の通常国会で、雇用保険法と高年齢者雇用安定法が改正され、それに伴って60歳代前半の賃金の底上げを狙う政策が発表されました。内容は、60歳から64歳までの労働者の処遇改善を行う企業に対して処遇改善促進助成金(仮称)を新設するとのことです。
雇用保険の「高年齢雇用継続給付金」が2025(令和7)年4月より縮小されることにより、60歳代前半の労働者の賃金水準が下がってしまうことが懸念されるため、上げるための方策が必要とされていました。新たな助成制度の創設は、賃金を補てんする対策で、企業にも賃金の底上げを検討してもらうのが狙いです。
現在の高年齢雇用継続給付金は、60歳以降の賃金が60歳時点と比較して75%未満に低下した場合、雇用保険から最高15%の給付金が受給できる制度です。それが、今後継続雇用を70歳に伸ばしていく中で縮小となり、2025年には15%だった給付が10%まで下がることになります。

具体的には、これに対応するように、60歳代前半の賃金を60歳時点と比較して75%以上になるように制度を改め、6ヶ月以上継続して運用することなどが要件とされています。
助成率は、高年齢雇用継続給付金が段階的に減少していくことに合わせて、中小企業は5分の4、大企業で3分の2としていますが、この率は2022(令和4)年までの適用で、その後は助成率も縮小され、高年齢雇用継続給付金の縮小が始まる2025(令和7)年度限りで廃止となります。

制度としては上記のようですが、企業側に求められることは、人材確保のために賃金の底上げが必要であり、そのための準備を今から検討していかなければならないということになります。しかし、同一労働同一賃金の大きな判決もあり、今後公正な待遇の確保が一気に進むかと思っていた状況に変化が出そうな感じがします。

少しだけ同一労働同一賃金の判決に触れておきますと、パートアルバイトに対して賞与を支払わないこと、または退職金を支払わないことは公平ではないとした裁判でしたが、一審、高裁の判決を覆し、一転支払わないことは不合理とはいえない(合理的な理由があるので却下する)というものでした。今後進んでいくと思われていた同一労働同一賃金の議論に大きな影響を与えることは間違いありません。

60歳代の賃金を考えるにあたっても、非正規雇用の賃金を考えるにしても、これらに合わせて年金制度改革もプラスされますので、企業側および労働者側双方が、今後の待遇についてどのように変わっていくのかを慎重に見極める必要が出てくるということになります。
2019年の総務省の調査によりますと、人口が26万人減少する一方で65歳以上の人口は約3600万人も増えており過去最高を記録しているそうです。65歳までの雇用の義務づけが課せられており、多くの企業では60歳定年後の5年間を継続雇用としている企業割合が多くなっていますが、この先は単なる5年間という位置づけではなく、労働力として公正な待遇を考えながら将来設計を考えていく時代となりそうです。

(公的保険アドバイザー協会 理事 福島紀夫)