高齢の親ががんになったら

介護 2020/10/01

「2人に1人ががんになる」と言われるほど身近な病気である、がん。

誰がなってもおかしくない病気ですが、いざ身近な人がなると戸惑うものです。

40代のEさんは、ある日、離れて過ごす母親から「お父さんにがんが見つかった」と電話をもらいました。家族は「第二の患者」とよく言われます。患者さんと同じように、身近な家族も精神的な負担を負うとともに、生活にも影響があるからです。

今回は、70代の父親に膵臓がんが見つかったEさんの事例をご紹介します。

 

 

がん患者の家族だって相談していい

 

「あのね、検査でがんが見つかって。膵臓がん。すでに転移があってね……」

そう伝えられたのは、ある日の仕事帰りでした。駅のホームでスマホが震えていることに気づき、なんとなく嫌な予感がして出てみると、そう告げられたそうです。会話の後半はほとんど覚えておらず、電話を切ったあともホームで呆然と立ちすくんだまま、電車を数本見送ってしまいました。

親はいつかいなくなってしまう。そうわかってはいましたが、父親の定年後には夫婦で旅行を楽しむなど両親ともに元気で、その “いつか”はまだまだ先だろうと思っていたEさんにとって、がんという二文字はショックでした。

実家から離れて東京で一人暮らしをするEさんは、ひとりっ子。誰に相談をすればいいのかわからないまま、何とか自宅と職場を往復する日々を続けていましたが、家で一人きりになると“いつか”がすぐに来てしまうのではないか、と怖くなります。

親には言えない、自分の不安な気持ちを誰かに聞いてほしいと思い、Eさんはインターネットで知った「がん相談ホットライン」に電話をしたそうです。

 

★ポイント★がん患者の家族が相談できる場所

Eさんが利用した「がん相談ホットライン」は、日本対がん協会が行っている予約不要の電話相談です。また、がん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」も、患者さん本人だけではなくご家族からの相談にも対面や電話で対応しています。

そのほか、東京・豊洲にある「マギーズ東京」、金沢のがんと向き合う会の「元ちゃんハウス」のように、がんに影響を受ける方々(患者さん本人、家族、パートナー、友人など)が気軽に立ち寄って話をしたり、くつろいだり、サポートを受けたりすることのできる空間もあります。

いずれも無料で利用できますので、一人で抱え込まずに、相談をしてみてください。

 

本人と家族、治療方針が合わなかったら

 

Eさんの父親の膵臓がんはすでに転移のあるステージ4で、手術では切除は不可能とのことで、抗がん剤治療を行うことになりました。

薬の種類を変えつつ、抗がん剤治療を続けて1年ほど経った頃、お父様本人が「もう抗がん剤治療はやめたい」とおっしゃったそうです。Eさんとしては「治療法があるのなら、治療を続けてほしい」と思い、そう両親にも伝えました。そばで治療を見ていたお母様は、本人とEさんの間で板挟み状態だったそうです。

そして、Eさんも帰省し、主治医との話し合いを設けることになりました。

「先生だったら、先生のご家族だったら、どうされますか?」

そうEさんが主治医に尋ねたところ、少し間をあけて「そうですね、私だったら……ですが、本人の気持ちを尊重するかもしれません」と言われたそうです。その言葉を聞いてEさんも納得し、抗がん剤による積極的治療はやめて、自宅に近い病院に定期的に通いながら、緩和ケアを受けることとなりました。

 

★ポイント★抗がん剤のやめどき

年々抗がん剤の種類は増え、治療の選択肢は増えています。その分、「どこまで続けるか」の選択が難しくなっていると言えるかもしれません。根治が難しい場合、抗がん剤の効果と副作用を考えると、緩和ケアを受けて苦痛なく過ごすほうが、余命が延びるケースもあります。最終的にはご本人の「どう生きたいか」という思い次第なので、よく話し合うことをおすすめします。

 

離れて暮らす親の看取り

 

その後、Eさんの父親は、しばらくは自宅近くの病院に通い、緩和ケアを受けていましたが、だんだんと体力が衰え、通院が難しくなってきたため、在宅医療に切り替えることになりました。そして、がんの発覚からちょうど2年が過ぎた頃、在宅医療の主治医から「そろそろかもしれませんね」と、“いつか”がもう間近に迫っていることを告げられたそうです。

「このまま自宅で過ごしたい」というのが、お父様の希望でした。そして、療養を支えていたお母様も「お父さんの望み通りにしたい」と希望していました。

Eさん自身も、父親の意見を尊重したいとの思いは同じでした。ただ、母親一人で看取るのは大変だろうし、自分自身も一緒に過ごしたい。そう思い、勤め先の上司、人事部に介護休業について相談をしたそうです。

その結果、残りの有給休暇を取得後、介護休業制度を使って休めることになりました。

 

介護休業は93日まで休める

 

「介護休業」は、要介護状態(病気やケガなどにより2週間以上の常時介護を必要とする状態)にある家族を介護するために休みを取得できるという、育児・介護休業法に定められた制度です。

ちなみに、よく似たものに「介護休暇」があります。どちらも育児・介護休業法で定められた制度ということは同じで、休みを取得できる日数や利用できる条件などが異なります。

介護休暇のほうは、対象家族1人につき1年度で5日まで利用できるのに対し、介護休業は対象家族1人につき93日まで(3回まで分割して取得可能)認められています。利用できる対象者は、介護休暇のほうは雇用期間が6カ月以上ある人なのに対し、介護休暇は1年以上勤めていて、かつ、介護休業開始予定日から数えて93日経過しても半年は雇用契約が続く人が条件です。ただし、会社によっては法律で定められた内容以上に充実している場合もあるので、就業規則を確認するとともに人事部等でご相談ください。

 

Eさんの場合、有給休暇利用後に介護休業を使うことができたので、最大で3カ月以上休みを取れることになりました。なおかつ、介護休業中は雇用保険による「介護休業給付金」が受けられるため、休業前の給与の67%が支給されます。そのため、経済的な心配も少なくてすみました。

何より、父親の最期の時間を実家で一緒に過ごせたことがEさんにとってはいちばんでした。お母様にとっても、Eさんが一緒に看取ってくれたことは心強かったと思います。

 

がんは治る病気になってきたとはいえ、やはり家族の生活にも影響を与えます。病気や治療法について知ることも大事ですが、この先どうなるのかといった漠然とした不安や、お金のこと、仕事のことなど、不安を抱くのは家族も同じでしょう。相談することも忘れないでください。

                                       

ライター  橋口佐紀子