指定難病になったら

介護 2020/08/15

原因不明で治療が難しく、慢性の経過をたどっていく病気のことを「難病」と言います。
現在、333種類の病気が難病に指定されています。

50代男性のCさんが告げられた病名は、難病のひとつである筋委縮性側索硬化症(ALS)でした。
今回は、Cさんの事例をもとに指定難病になったらどういう支援制度があるのか、ご紹介します。

 

ALSの発症

Cさんが最初に違和感に気づいたのは、駅の階段を駆け上がろうとしたときでした。急いでいるのに、思うように足が動かない。左足にあまり力が入らず、重たく感じたのです。

思えば、数カ月前から朝起きたときに足がつる、痛む、ふとしたときに筋肉がピクピクするといったこともありました。ただ、それまでは「疲れているのだろう」とあまり気に留めずにいたのです。

でも、駅の階段で「足が思うように動かない」「重たい」と感じてからは、はっきりと違和感を抱くようになり、病院を受診しました。最初に行った整形外科では原因はわからず、「運動不足」を指摘されたそうです。でも、どうも釈然としません。それで、複数の病医院、診療科をまわったところ、あるとき大学病院の神経内科を紹介され、そこで、「筋委縮性側索硬化症(ALS)」と診断されました。

 

★ポイント★確定診断がおりるまで

ALSは、1年間で新たに発症する人は10万人に1~2人程度と言われる稀な病気です。そのため、発症から診断まで平均で1年以上かかっていると言われています。もし最初にかかった病院で「運動不足」や「年のせい」などと言われて病名を告げられなかったり、別の病名を告げられたりしても、気になる症状が良くならないときには再度受診することをおすすめします。

 

医療費のサポート

ALSは、はっきりした原因はわかりませんが、神経の老化に関連していると言われ、筋肉を動かし、運動を司る神経が障害を受けることで全身の筋肉がやせていく病気です。手足や喉、舌の筋肉がやせていけば、歩けなくなったり、声を出しにくくなったり、食べ物や飲み物を飲み込めなくなったりします。そして、やがて呼吸に必要な筋肉が痩せていけば、呼吸も十分にできなくなり、呼吸器が必要な状態になります。ただその一方で、体の感覚や視力、聴力は維持されることが一般的です。

Cさんはいくつかの病院をまわりながら、自分でもインターネットで自分の症状に当てはまる病気を調べていました。そのため医師から「ALSの可能性が高い」と告げられたときにも、「やっぱりそうか」と驚きはなかったものの、実際に告げられるとやはりショックだったそうです。

この先どうなっていくのか、仕事は続けられるのか、お金はどのくらいかかるのか――。心配は尽きません。

診断を受けた日、医師からは病気の経過に関する説明を受けるとともに、「指定難病医療費助成制度の申請をするように」と言われました。

 

★ポイント★「指定難病医療費助成制度」とは

指定難病の患者さんで、一定の重症度以上の場合に医療費を助成する制度です。ALSでは「重症度分類2度以上」の場合、対象になります。

申請が通ると、指定医療機関(病医院、薬局、訪問看護ステーション)でのALSに関する医療費の自己負担割合が2割(1割負担の人はそのまま)になり、所得や状態に応じて、千円(人工呼吸器装着者)、2,500円、5,000円、1万円、2万円、3万円の自己負担上限額が設けられています。

申請から医療受給者証の交付までには3カ月ほどかかりますが、その間の治療費もあとから払い戻し請求を行うことができるので、領収証等は取っておきましょう。

 

  ※ALSの重症度分類について

  1度:家事や仕事をだいたいこなすことができる

  2度:家事や仕事は難しいが、日常の身の回りのことはだいたいできる

  3度:食事、排泄、移動のいずれか一つが自力でできず、介助を要する

  4度:呼吸やたんの吐き出しができない、食べ物の飲み下しに支障がある

  5度:気管を切開している、人工呼吸器を使っている、経管栄養をしている

 

どこに相談をすればいいのか

ALSに限らず、突然、難病と言われる病気になれば、戸惑います。進行性の病気の場合、病気の進行に伴って、少しずつ「できないこと」が増えていくなか、いかに生活を整えるかが大切です。

Cさんはまず、病院の医療ソーシャルワーカーに相談しました。そして、地域の「難病相談支援センター」にも話を聞きに行ったそうです。

 

★ポイント★「難病相談支援センター」とは

難病相談支援センターとは、難病患者さんが安心して地域で暮らせるよう、情報提供や助言を行う施設で、都道府県・指定都市に設置されています。電話や面談による療養生活に関する相談、医療相談、就労相談、公的手続きの相談支援のほか、ピア相談(同じ病気をもつ患者・家族による相談)や患者・家族交流会などを行っています。

 

療養生活を支えてくれる制度とは

今後の療養生活について相談をしたところ、病院の医療ソーシャルワーカー、難病相談支援センターの相談員からは、「介護保険」「身体障害者手帳」「障害年金」について説明をされました。

介護保険は、一般的には65歳以上が対象ですが(第1号被保険者)、40~64歳でも特定の病気が原因で介護が必要になった人も対象になります(第2号被保険者)。ALSも対象疾患のひとつです。

また、身体障害者手帳は障害の程度によって1級から7級までの等級に分けられ、等級に応じて、さまざまなサービスが受けられます。居宅介護(ホームヘルプ)などの介護保険サービスと共通するもののほか、交通機関の無料パスなども利用できます。なお、障害福祉サービスは、指定難病の患者さんの場合、身体障害者手帳を取得していなくても申請を行えば受けられます。

Cさんは、指定難病医療費助成制度に続いて、介護保険と身体障害者手帳の申請も行いました。

一方、障害年金は、65歳になる前に、病気やケガによって障害をもつ状態になったときに支給される年金です。初診日(障害の原因となった病気・ケガについて初めて診療を受けた日)から1年6カ月経過した時点で障害の状態にあることが条件です。つまり、1年半待ってから申請する必要があります。そのため、障害年金のほうは「いずれ申請しましょう」ということになりました。

 

24時間の訪問介護サービスもある

ALSは、リハビリや薬物療法で症状の進行を遅らせても、それでも少しずつ進行していくものなので、そのときどきの状態に応じて必要なサービスを選び取ることが肝心です。

たとえば、障害福祉サービスのなかには、常に介護が必要な障害者のために「重度訪問介護」と言って、1日最長24時間連続で訪問介護を受けられるサービスもあります。

ただし、こうしたサービスは、一つひとつ申請の手続きが必要です。介護保険のケアマネジャーや障害福祉サービスの相談支援専門員、あるいは難病相談支援センターや地域の保健所、患者会などで相談・情報収集しながら支援制度を賢く活用しましょう。

                                       

ライター  橋口佐紀子