パワーハラスメントに対する意識改革を

労働・雇用 2020/08/01

ここ近年、労働相談の件数が上昇している項目が「ハラスメント」に関する問題です。10年ほど前と比べると、解雇などの退職時のトラブルと逆転するかのように、いじめやハラスメントに関する相談や紛争が増えています。その件数は事業の種類を問わず急増しているといってもよいでしょう。セクシャルハラスメント(以下「セクハラ」)、マタニティハラスメント(以下「マタハラ」)は、2017年から法律によって防止策が取られていますが、パワーハラスメント(以下「パワハラ」)については、大企業は今年の6月から法規制が始まりました。ハラスメントが増大している時代に対処するには何が必要なのかを考えてみます。

セクハラやマタハラについては男女雇用機会均等法や育児介護休業法において防止策を講じることになっています。パワハラについても「労働施策総合推進法」という法律で防止措置が定められました。この法律で画期的と感じたことは、パワハラの定義とされてきた文言がそのまま法律条文になったことです。

①職場において行われる、②優越的な関係を背景とした言動であって、③業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、④その雇用する従業員の就業環境が害される(身体的・精神的な苦痛を与えること)

これらが盛り込まれることによって、雇用管理上で配慮しなければならないことになりました。この法律条文を守らないと何が起きるのかというと、事業主の法的責任として損害賠償や債務不履行責任などが問われることになり、その影響は該当者のみならずチームとして動いているスタッフ、関与先の関係者など、大きく影響することになりますので注意が必要です。

パワハラ問題で、現場でもっとも頭を悩ませるのは、何がパワハラに該当するのか、どこまでが業務上の指導なのか、相談者の主張する内容がパワハラに該当するのか否か、というパワハラと業務上の指導との線引きではないでしょうか。ここを明確にしておくことで問題の発生に備えることができます。この法律ができたことによって大きくパワハラが減るということにはならないかもしれませんが、発言に対して注意することや被害を受けた方にしてみると安心感が与えられることになると考えます。

パワハラについての問題が大きくなることで、指導をする立場の上司の方は萎縮してしまいがちですが、仕事のミスや業務命令を守らなかった場合等で、その注意・指導方法が行き過ぎていなければパワハラには該当しませんし、原則として従業員は企業や上司の指示に従う義務があり、たとえ本人の意見と異なる上司の指示・命令であっても、正当な範囲内であればパワハラには該当しないと考えます。また反対に、具体的な根拠もないまま「自分は嫌われている」「私だけに冷たい」という理由だけでは、パワハラとは判断できないと考えますので、過剰に反応しないための対応が求められます。

今後、ハラスメントが起きないための予防策は、被害者にならないための心がけです。日頃から、上司や同僚などとのコミュニケーションを密に取ること、相手の言動に疑問や不安を感じたらその気持ちを伝える環境を作っておくことなどが考えられます。加害者にならないためにも同じことがいえますのでお互いの人格を尊重した接し方をすることが大切です。

テレワークが浸透している中で難しい点もあるかもしれませんが、事業主と従業員が高いモラルをもって、双方が、ハラスメントが発生しない職場環境づくりに積極的に取り組むことや、管理職が模範となる行動を示すことがポイントとなります。これは私見でもありますが、パワハラを行ってしまう方は、自分自身が仕事のできる方や責任感の強い方が、自分と同じことを求めてしまうために発生していることが多いと感じます。お互いを思いやる気持ちを持った職場にしていきたいものですね。

(公的保険アドバイザー協会 理事 福島紀夫)