「親が認知症かもしれない」と思ったら

介護 2020/08/01

2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。

認知症は誰がなってもおかしくない、身近な病気です。

旦那さんを先に亡くし、一人暮らしをしていた70代半ばのBさん。様子がちょっとおかしいと最初に気づいたのは、電車で1時間ほどの距離に住む娘さんでした。ただ、異変に気づいても、病院を受診してもらうまでに一苦労、そして、認知症と診断されてからも薬の管理やお金の管理、生活のことなど、心配は尽きなかったそうです。

今回は、Bさんの事例をもとに、「親か認知症になったらどうするか」を考えましょう。

 

どうやって病院に行ってもらうか

 

会話のなかで何度も同じ話が出てくる、1日に何度も電話がかかってくる、よく知っているはずの場所で迷子になる、きれい好きだったのに部屋が散らかり始めた……など、「あれ?」と思うことが重なるようになり、娘さんはBさんが「認知症かもしれない」と思うようになったそうです。

ただ、子から親に「認知症かもしれないから検査に行こう」とは言いづらいものです。Bさんの娘さんも、少しの間、どう伝えようかと悩んでいましたが、結局、「最近こういうことがあったよ」と紙に書きだして見せたうえで、「治療で治るもの忘れかもしれないし、一度一緒に検査に行こう」と、率直に伝えました。

 

★ポイント★受診を断られたら?

認知症の診断や治療は、主に精神科と脳神経内科(神経内科)が行っています。最近では、「もの忘れ外来」を標榜しているところも増えていますが、こうした専門的な医療機関に親を連れていくのはハードルが高く感じるかもしれません。

そもそも、「認知症の検査を受けてほしい」と伝えたら、「そんなものは必要ない」と断られてしまったという話もしばしば。そのため、「私の健康診断に付き添ってほしい」「食事に行こう」などとだまし討ちのように病院に連れて行ったという話も聞きますが、「騙された」とわかると本人はますます不安になってしまいます。

それよりも、Bさんの娘さんのように、率直に状況を話し「心配している」気持ちを伝えて、「介護することになる私たちのために」と頼んだほうが効果的だと思います。あるいは、かかりつけ医がいるなら、その先生に相談して、検査ができる医療機関にうまくつないでもらうといいでしょう。

 

薬の管理はどうするか

 

Bさんは、娘さんに付き添われて病院の神経内科を受診し、そこで、やはり「アルツハイマー型認知症」と診断されました。そして、抗認知症薬が処方されました。

Bさんは、旦那さんを亡くしてからは一人で暮らしていたので、いまのところ、身のまわりのことはなんとか自分でできています。とはいえ、認知症は少しずつ進行していくもの。娘さんとしては心配です。新たに処方された薬を正しく服用できるのかも心配でした。

医師からも、「介護認定を受けて、薬の管理は訪問サービスを使ったほうがいいと思いますよ」と助言があり、娘さんが役所に行き、介護保険の申請を行いました。

そして、後日、要介護認定のために認定調査員が自宅に来て認定調査(聞き取り調査)が行われ、その結果と主治医意見書をもとに、「要介護1」と認定されました。

 

★ポイント★認知症があれば「要介護」認定が下りるとは限らない

身体介護が必要なケースに比べて、認知症の場合、認定調査員に適切に状態を伝えなければ正しい評価が得られず、低く認定されてしまうことがあります。適切な介護認定を得るには、認定調査時に状況をよく把握している家族が同席すること、その際、困っていることをメモに箇条書きなどでまとめておくこと、そして、主治医意見書は認知症の症状をよく把握している医師に書いてもらうことが大事です。

 

認知機能、身体機能を維持するために

 

「要介護1」と認定されたBさんは、本人の希望で一人暮らしを続けつつ、訪問薬剤管理指導や訪問介護を使い、服薬管理や生活の見守りをお願いすることになりました。

また、認知症の進行を遅らせるには、日中に体を動かすこと、人と交流をもつこと、生活リズムを整えることも大事です。そこで、認知機能や身体機能を維持するために、週2日、「認知症対応型通所介護」に通うことになりました。

 

★ポイント★認知症対応型通所介護(認知症対応デイサービス)とは

認知症対応型通所介護は、認知症と診断されている要介護者を対象としたデイサービスです。認知症であっても一般のデイサービスを利用することはできますが、知らない人が多いとなじめなかったり、不安に感じたりする人もいます。認知症対応型通所介護は、利用定員が12人以下で、介護職員一人あたりの利用者数が少ないことが特徴です。

 

お金の管理はどうするか

 

Bさんの娘さんにはもう一つ、心配なことがありました。それは、お金の管理です。

Bさんはこれまでにも「通帳がない!」と大騒ぎすることがあり、預金の出し入れに手こずったり、通帳を見せてもらうと何に使ったのかわからない引き落としがあったり……と、娘さんとしては心配だったのです。

担当のケアマネジャーに相談したところ紹介されたのが、「成年後見制度」と「日常生活自立支援事業」でした。いずれも認知症や精神障害などで判断能力が不十分な人を支援するための仕組みです。

成年後見制度は、財産管理や福祉施設への入退所などの法律行為全般を、本人に代わって後見人が担うというもの。判断能力が不十分になる前から本人が任意に後見人を選任する「任意後見」と、判断能力が不十分になってから家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」があります。Bさんの場合は、すでに認知症を発症しているので「法定後見」のほうになります。

一方、日常生活自立支援事業とは、精神上の理由により、預金の出し入れや福祉サービスの利用手続きなどを適切に行うことが難しい人を対象に、地域の社会福祉協議会が主体となって、通帳などを預かったり日常的な金銭管理を代行したり、福祉サービスの利用援助を行ったりするもの。

Bさんと娘さんは、両方の説明を聞いたうえで、まずは日常生活自立支援事業を活用することにしました。

 

★ポイント★「法定後見」は子が後見人になるとは限らない

子ども親の法定後見人の申し立てを行っても、その子どもが後見人として選任されるとは限りません。家庭裁判所に不適任と判断されれば、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選ばれます。また、成年後見の利用をいったん開始したら、本人(親)の認知症が回復し判断能力が戻らない限り、原則やめられません。成年後見を考える際は、制度についてよく理解してから手続きを行うべきです。

 

 

相談先を複数もっておく

 

認知症は「暮らしの障害」と言われることがあります。認知機能が少しずつ低下していくことで、今までできていた暮らしのうち、少しずつできないことが増えてくる。ただ、すべてができなくなるわけではありません。

できなくて困っていることを介護保険サービスも含めたまわりのサポート、工夫でいかに補うか、が肝心です。

そのため、認知症の人を介護する人は、相談先を多くもっておくことも大事です。主治医やケアマネジャー、訪問看護師といった専門職、地域包括支援センターのような公的な相談窓口のほか、同じように介護をしている人たちからヒントをもらえることも多々あります。悩んでいることがあれば、介護経験のある人に相談してみる、「認知症の人と家族の会」のような家族会に参加してみるのもひとつの方法です。

                                        ライター 橋口佐紀子