急に介護が必要になったら?

介護 2020/07/03

病気というのは突然訪れるものです。Aさんが突然脳出血で倒れたのは、還暦を目前としたある日のことでした。命こそ取り留めたものの、右半身の麻痺と運動性失語(聞いて理解することはできるが、話し方がぎこちない)という後遺症が残り、仕事も日常生活上も、今まで当たり前にできていたことが一人ではできなくなりました。そうすると、介護保険のサービスや在宅医療を活用しながら生活を営むことになります。経済的な負担も気になるところです。

ここでは、Aさんの事例に沿って、在宅医療・介護を受けるまでの流れについてご紹介します。

 

きっかけは入院

自宅で突然、右腕に力が入らなくなり、呂律も回らなくなったAさんは、一緒にいた奥さんに救急車を呼んでもらい、近くの急性期病院を受診しました。脳出血との診断を受け、すぐに治療に移り、急性期の治療を行ったあと、回復期リハビリテーション病棟のある病院に転院することに。

そこで懸命なリハビリテーションを行った結果、発症直後は食事もとれない状態でしたが、飲み込みはできるようになり、経鼻経管栄養も外れ、口から食べられるようになりました。ただ、右半身の麻痺と軽い失語症状は残ったままでした。

「リハビリテーションを続けたい」と思っていたAさんですが、回復期リハビリテーション病棟に入院できる期間には上限があります。原則、脳血管疾患の場合は150日以内、高次脳機能障害を伴った重症な脳血管障害でも180日以内です。Aさんの場合も、入院当初から入院期間は半年と言われていたそうです。

 

★ポイント★回復期リハビリテーション病棟について

リハビリテーションを専門とする回復期リハビリテーション病棟では、1日最長3時間(20分×9単位)のリハビリテーションを受けることができます。ただし、同病棟の入院期間は最長でも180日間、病気の種類によって入院期間の上限が定められています。

 

 

入院中、退院後の生活の相談は誰に?

回復期リハビリテーション病院に転院した当初から、後遺症が残ることが予想されていたAさんの場合、退院後の生活を見越して、主治医から「要介護認定を受けること」を勧められました。といっても、Aさんご夫婦にとっては初めてのことですから、どうすればいいのか、わかりません。

そこで、相談に乗ってくれたのが病院の「医療ソーシャルワーカー」です。医療ソーシャルワーカーは、メディカルソーシャルワーカー(MSW)、ケースワーカーと呼ばれることもあります。病院によって名称は異なりますが、「医療相談室」「患者サポート窓口」「地域連携室」といった部門に在籍しています。

 

 

要介護認定を受けるには?

要介護認定の申請は、Aさんの奥様が行いました。申請書と介護保険被保険者証、身元証明書といった必要書類を持参し、役所の介護保険の担当課へ行き、申請手続きを済ませると、後日、市の担当者が聞き取り調査(認定調査)に来ます。

入院中の場合は、入院している病院に担当者が来てくれます。Aさんの場合も、入院中の病院で、奥様も同席の上、心身の状態や日常生活動作、医療上状況などについて聞かれ、実際に動作を行ってみせたりして、1時間ほどかけて調査が行われました。

その調査結果をもとにコンピュータによる一次判定が行われ、さらに、1次判定までの結果と、主治医に書いてもらった意見書をもとに介護認定審査会で二次判定が行われ、最終的に要介護度が決定されます。

要介護認定の判定結果は、市区町村から郵便で送られてきます。申請から結果の通知までは「原則30日以内」となっているので、およそ1か月かかると考えておきましょう。

 

★ポイント★本人・家族による要介護認定の申請が難しい場合には?

一人暮らし、または家族が遠方に住んでいるなど、本人や家族が申請を行うことが難しい場合には、地域包括支援センターや居宅介護支援事業者、地域密着型介護老人福祉施設、介護保険施設に代行してもらうことも可能です。

 

ケアマネジャーの選び方

要介護認定が下りたら、次に必要なのは「ケアプラン」を作成することです。ケアプランは自分で作ることもできますが、ケアマネジャーに依頼するのが一般的です(要支援の場合は地域包括支援センターが作成を担当します)。

ケアマネジャーは、自分で探さなければいけません。といっても、どこにどんなケアマネジャーがいるのか、わかりませんよね。市区町村の介護保険の担当課や地域包括ケアセンターに行くと、地域の居宅介護支援事業所のリストをもらえます。

Aさんの場合は、入院中の病院併設の居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーに依頼することになりました。

 

どんなサービスを利用するか

Aさんは、移動は車いす、起き上がりや移乗には介助が必要、食事は何とか自分で食べることができますが、入浴やトイレは介助が必要という状態でした。一方、コミュニケーションは、軽度の失語があるため言葉はゆっくりですが、会話は可能です。

要介護度は「3」と判定されました。要介護度は要支援要1、2、要介護1~5の7段階に分かれるので、要介護3は中度の介護を必要とする状態です。

施設に入るという選択肢もありましたが、Aさん本人の「家に帰りたい」という思い、そして経済的な問題もあり、自宅に帰ることを選びました。

では、家での生活をどのように支えるか。病院の職員(医師、看護師、理学療法士、SW)とケアマネジャー、家族でカンファレンスを行い、退院後の生活について検討した上で、ケアマネジャーと話し合い、「訪問リハビリでリハビリテーションを続ける」「週3回デイサービスに通ってそこで入浴もお願いする」「平日の日中は一人になるのでデイサービスに行かない日に訪問介護に入ってもらう」ことに。また、介護ベッド(特殊寝台)と車いすも介護保険でレンタルすることにし、要介護3の支給限度額いっぱいにサービスを組んでもらいました。

 

★ポイント★介護保険でレンタル可能な福祉用具貸与とは?

車いす、車いすの付属品(クッション、姿勢保持用品など)、特殊寝台(介護ベッド)、特殊寝台の付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ、認知症老人徘徊感知機器(認知症外出通報システム、離床センサーなど)、移動用リフト、自動排泄処理装置の13種類です。

 

段差の解消や手すりの設置など、住宅改修も

もうひとつ、Aさんが退院前に行ったのが、「住宅改修」です。

介護保険では、要介護度の区分にかかわらず20万円を上限に住宅改修費が支給されます。対象となるのは、①手すりの取り付け、②段差の解消、③滑り防止および移動の円滑化等のための床材または通路面の材料の変更、④引き戸等への扉の取り換え、⑤洋式便器等への便器の取り換え、⑥そのほかこれらの各工事に付帯して必要な工事――です。

Aさんの場合は、「退院前訪問指導」として、退院前に一度、病院の理学療法士に自宅に来てもらい、どのような改修が必要かを相談した上で、車いすで移動できるようにスロープを設置したり、玄関や廊下などに手すりをつけたりといった改修を行いました。

住宅改修は、工事の実施前に市町村に申請する必要があります。事前申請を行わなければ支給の対象とはならないため、お気をつけください。

 

Aさんの場合は、このように、スムースに在宅療養に移れるよう入院中に準備を行いました。どのようなサービスを使うかは、本人の心身の状態はもちろん、家族の介護力、家庭環境などにも左右されます。ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーなど、専門家に相談しつつ、早めに準備を進めることが大切です。

 

ライター 橋口佐紀子