年金の適用拡大をプラスに変える

年金 2019/12/01

パートタイマーなどの短時間労働者に対する、厚生年金の適用拡大の検討に入ったことが報道されました。現在の基準は、501人以上の大企業において、労働時間が4分の3未満であっても週の労働時間が20時間以上であるとか、賃金の月額が8万8千円以上であることなどを条件として被保険者になります。今後この人数要件が「501人以上」から「50人超」に広がるといいます。この数値を見た方には、中小企業での保険料負担が重くなるのではないかと考える方も多いでしょう。しかし、いわゆる2000万円問題で明確になった将来の不安の不足分を補うには、保険料負担のマイナスイメージを払拭しなければならない時期に来ているともいえます。先日、協会理事の打ち合わせの中でもこの話題になり、初めから制限を設けなければこういった議論にはならなかったのにという話題になりました。税務では企業の大きさに特段の制限はないはずですが、個人にかかるものとして制限をかけてしまった責任は大きいといえます。法律もそうですが、旧態依然とした社会保険庁の体質が大きく影響したと考えます。

過去の話はどうしようもありませんが、これからの適用拡大には大きな希望が見えてくるのではないかと考えます。現在労働力人口は減少の一途ですが、パートタイマーから正規雇用にシフトすることを国は強く進めています。女性のさらなる活躍や高齢者、若者の労働市場への参入を促すことで格段に変わってくるという数値も出ています。いわゆる「2025年問題」にあるように、団塊の世代が後期高齢者となるあたりから、さらに労働力人口は減少し、何もしないままでは約5300万人となってしまう労働力人口が、参入を促すことで5900万人まで増加するといいます(厚生労働省「 国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し 平成26年財政検証結果)。こういった、新たな労働と年金の支え手を増やすことで労働市場も公的保険も潤いを増してくるといえます。
かつては働き方(時間や場所など)に制限がなく、バリバリ働く人がもてはやされた時代でしたが、今や女性だけでなく男性も制約がある方が増えています。育児や介護だけでなく、自身の病気なども大きく影響することでしょう。しかし、制約があるから働けないということではなく、制約がありながらもいい環境で働くことができる、公的保険にも加入できて将来の不安も解消できるという考え方にシフトしなければならないということです。
先日のアドバイザーフォーラムにおける村井議員の基調講演の中でも、支え手の年齢を65歳以上から75歳以上とあげることで支えるバランス図も変わると話されていました。働く年齢もそうですが、労働市場に参入していない方たちを、どのように意識づけるかということも、これからの大きなテーマといえます。

当協会では「ねんきん定期便」の重要性をみなさまにお伝えしています。一人ひとりが定期便を確認することが将来の不安を軽減するスタートと位置付けています。将来はどんなリスクがあるか完全にわかる人はいません。いないからこそ、それらに備える準備を行うことが大切であるということです。障害や死亡というリスクに加えて、長生きも大きなリスクです。平均寿命は80歳代後半といわれていますが、実際に長生きしている方はもっと上の年齢のはずです。そのことを理解していただくと、今年金の適用拡大に反対する意見は少なくなることでしょう。
また、将来の自分へ5万円の投資をしようという表現を使ってみなさまにはお伝えしていますが、年金の受給開始を数年遅らせることで、その差分は埋まるといいます。その期間をどうするのかといえば、元気に働きましょうということにつながります。「これだけしかもらえない」ではなく、この年金をうまく使う方法を考えなければなりません。「年金は作るもの」も当協会のキーワードです。ぜひ、年金の適用拡大を前向きにとらえていただきたいと考えます。

(公的保険アドバイザー協会 理事 福島紀夫)