がん治療と働くことの両立はどうするか
我が国では、2人に1人が一生に一度はがんに罹患し、そのうち3人に1人が20歳以上65歳未満の働く世代といわれています。国立がん研究センターの調べでは、2014年に新たにがんと診断された症例は約86万症例、そのうち男性は約50万例、女性は約36万例であり、圧倒的に男性の罹患割合が高いとしています。
部位別では、男性は胃、肺、大腸など消化器系の割合が多く、女性は乳がん、子宮がん、卵巣がんなどが高いとしていますが、それぞれ年代別にみると変化があり、年代別、部位別などあわせると症例は様々です。
このように、症例としては増えているものの、早期に発見することで治療も早い対処ができ、「不治の病」から「治る病」となっており、今は「治療しながら働く」「通院しながら働く」という、「ながらワーカー」も増えています。そんなに治療しながら働かなければならないのかという批判もありますが、生活の補償が十分でない方や治療が軽く済んだ方は将来に向かっての設計をしていかなければいけませんので、働けるときにきっちりとしておきたいものです。今月は、がんに罹患したときにどのように働くのかを考えてまいります。
がんと診断された場合、症状によっては有給休暇を消化することで済むケースもあれば、有給休暇では足りず、手術や抗がん剤治療などで大きく日数が割かれるケースもあります。短時間勤務での復職には約2ヶ月半、フルタイムでの復職には約6ヶ月という数値が最も多いそうです。がんの種類によっても日数の差異はあると思いますが、より短い期間で復職することができ、休業補償も軽く済むことが期待されるところです。
仮に、半年など一定期間休まなければならない時には、健康保険から傷病手当金が受給できることもあります。パートタイマーなど短時間勤務の場合は、社会保険の加入対象ではなくなりますので、手当等についてはお勤めになっている企業でご確認ください。
この傷病手当金は、私傷病で休みはじめてお給料が支払われない場合に、1年6ヶ月まで受給できます。休業している途中に病状が良くなり、その後再度休業する場合であっても受給期間は中断せず、休み始めから1年6ヶ月を過ぎると受給できませんので期間には注意してください。金額はお給料の約67%となります。ただし、この間も社会保険料などは発生しますので、手当金が支払われるまでの担保はしておかないといけません。
働く側としてみれば、辛い思いをしてまで働きたくない、治療に専念したいという気持ちも強くなりますが、企業側も人材不足の中、治療と働くことの両立支援対策を検討しており、職場環境の整備を積極的に行うよう促しています。がんに罹患したことがない方々が、病気を抱えながら働こうとする方の意向を十分に汲み取ることが大切になってきています。がんになった場合、治療の辛さで仕事にも行きたくない気分にもなることがあると思いますが、そういった方への配慮などをすることが求められているのです。
今は、在宅勤務や短時間勤務など、働く側に沿った形の就労形態が増えてきています。そういった職場環境の整備など、治療しながら働く方を支援する動きは今後も増加傾向にあるでしょう。
大切な人材を企業の制度の未熟さで失ってはいけない一方、治療しながら働く方も制度にあぐらをかくのではなく、寄り添ってくれる企業や同僚への配慮も忘れてはいけません。
お互いが辛い思いも、楽しい雰囲気も両立できる体制を整えていくことが、病気を抱えながら仕事を継続する意義ではないかと考えます。
(公的保険アドバイザー協会 理事 福島紀夫)