早期退職にかかる健康保険の選択肢
人材不足といわれる中、大企業は早期退職を含む大きなリストラを決行しようとしています。報道によると、業績好調のうちに人員の適正化を図り、事業環境の変化に備える動きをとるのが目立つといいます。早期退職者は、今年の上半期で8千人を超え、年間でも1万人を超えるのではないかとも推測されています。
早期退職で対象となるのは40代50代が多く、その理由は、デジタル社会への対応ともいうべき理由が相次いでいるようです。この便利になった世の中に乗り遅れないための策も講じていかなければならないということです。
今、景気も好調といわれる中、こういったリストラ対策を講じて生き残る術も大切ですが、万が一早期退職の選択をしたり、リストラの対象者になってしまったりした場合、健康保険はどのようになるのかを確認しておきましょう。
会社を退職した後の健康保険の選択肢は三つです。
一つ目は、これまで加入していた健康保険の「任意継続制度」を利用することです。退職前に継続して2か月間の被保険者期間がある方は、2年間任意継続被保険者となることができます。任意継続被保険者になることはあくまでも任意ですが、任意でやめることはできません。途中から国民健康保険の被保険者となることや家族の被保険者の扶養になることもできないことがポイントです。
二つ目は、国民健康保険の被保険者となることです。お住いの市区町村で手続きすることになります。保険料については、その方の前年の年収によって異なりますが、2019年度の上限は80万円(介護保険を含むと97万円)とされており、それを一括か10回の分割で納付するので、割と大きな負担となります。
三つ目は、家族の被扶養者になることですが、60歳未満であれば130万円未満、60歳以上や障害のある方の場合は180万円未満の収入の上限があることなどの情報は確認しておきましょう。
問題となるのは、就職活動が長引くことで保険料負担が大きくなることです。退職後そのまま再就職しなかった場合、収入がない分、翌年の国民健康保険の保険料は安くなります。ですが、任意継続を選択されていた場合、国民健康保険に切り替えができませんのでご注意ください。
また、会社都合による退職や解雇などの場合は、国民健康保険の軽減措置を受けられることがあります。こちらは自治体の広報などを確認するとよいでしょう。
早期退職対象になった時、退職して一時的に大きな金額を受け取るほうがいいのか、そのまま残って賃金を受け取るのがいいのか、その後の人生に大きく影響しますのでじっくりと電卓を叩かなければならないでしょう。私と同年代が今の時期に職を失うことは大変なことですし、子どもの養育費がかかる世代だったとしたらどう生活していくのだろう、などとその立場になったことを想像して考えたこともあります。
リストラという言葉自体、本来は事業の再構築を図り、事業を活性化させるものであり、悪いものではないはずですが、日本ではどうしても不採算事業の撤退や人員削減のイメージが先行しています。どうしてもバブル崩壊を知っている世代にとってはいやな響きに聞こえます。
人生100年時代といわれる中、まだまだこの先働かなければならない人たちは多いはず。自ら早期退職の対象になるにしても、最悪のケースで選ばれてしまったとしても、将来設計を十分考えておかなければなりません。そのためにも健康保険などの公的保険の基本をおさえておくことは重要です。
(公的保険アドバイザー協会 理事 福島紀夫)