老後2,000万円問題から考えること

年金 2019/07/01

金融庁の2,000万円報告書が大きな話題となり波紋を呼んでいます。一般的にはなかなか受け入れ難いということが先走っていますが、実はただ単に2,000万円不足するという報告ではないことはご理解いただけることでしょう。人口動態に始まり、高齢化による単身生活の問題や認知症などの病気など、社会問題に大きく触れており、高齢化に伴うリスクを検討しているといえます。また、年金に関する不信感も煽るような報道のされ方にも疑問が残ります。将来的にも年金は万全とはいえないことは多いですが、破綻するようなことはないと信じています。国は、そのためにあらゆる政策を検討し進めていると考えます。しかし、年金に対する不安や軽視は今始まったことではありません。
今回は、何十年も前から年金を信じていなかった方が、途中からなんとなく厚生年金に加入をし、実際にもらい始める段階になって後悔されたという実話を元に、将来受け取る年金制度について考えてみます。

先日、ある方から年金の相談がありました。その方は、65歳の段階で年金相談に行った際、繰下げ制度を説明されましたが、どうせそんなにもらえるものではないし、今は収入も安定しているので、適当に書類を書いて出したそうです。その後、事業は低迷することになり、収入も不安定に。もう仕事を引退しようと決めた今年の初めに、改めて年金事務所に出向くと、過去に6ヶ月間の年金に加入していた時期はないかと問われますが、思い出せない。それが自分の年金にどう繋がるのかの説明も不明瞭だったそうです。私も年金事務所に同行し詳細を伺うと、年金記録がまばらで、年金の受給権が発生したのが65歳6ヶ月。その段階で繰下げの申請を行ったのですが、最長繰下げ期間の5年を経過するのが70歳6ヶ月だったので、142%の繰下げ年金は受給できない、そのために過去の記録を思い出せないかということでした。その方は、若い頃から自由に職に就き、年金など満足にかけておらず、今になってこんなことになるなら、きちんと納めておくべきだったともらしました。

今回の2,000万円報告書問題は、意味もなく将来の不安を煽っているものではありません。若者がさらに不安を抱えて公的年金に加入しないということはないと思いますが、あの時こうしておけばよかったという時には既に間に合わないことが多くあるものです。若い方にも、これから資産形成を考えている方にも、ぜひ報告書の重要性を理解していただくことは大切であると感じます。毎月5万円を将来の自分への仕送りにするという当協会のセミナーでの表現にもあるように、将来必要なシミュレーションをすることはとても大切です。

また、公的年金が一番安心できる保険商品であること、その情報源であるねんきん定期便を使って資産状況を勘案した将来を見据えていくこと、さらに報告書の内容を揶揄することなく、自分の未来を考えることもとても大切なことではないでしょうか。

冒頭の報告書にある高齢化社会の問題に話を戻すと、「独居」と「認知」は大きな課題です。高齢者の単身生活は大きな不安となりますので、一人で生活している方が突然動けなくなった時のサポート体制をしっかりと準備しておくことが求められます。その外部サポートを依頼するにも原資が必要ですので、今のうちからの備えをしておかなければなりません。また、報告書の中では認知症の増加にも触れています。認知症の自覚症状がないと、普通に出かけ、普通に車を運転し、高齢者の交通事故にもつながりかねません。「認知」は大きな社会問題です。こういった、「独居」と「認知」の高齢者をカバーするための成年後見制度にも触れていますが、まだ認知度は低く、このテーマは今後の大きな課題の一つになるでしょう。

(公的保険アドバイザー協会 理事 福島紀夫)