障害年金の不支給決定が増えている背景は

先日、私の従姉妹が股関節の手術をして、人工関節を入れたと話がありました。話の経緯は省略しますが、障害年金に該当するという話をしたところ、最近は障害年金も厳しくなってきていて、申請できないものだと思っているとのことでした。
ちょうど時期を同じくして、国の障害年金について、2024年度に障害年金を申請し、不支給とされた人が前年度の2倍以上、約3万人に急増しているという報道があり、このことかと認識しました。共同通信が報じたこの問題は、社会保障制度を守っていく上でどのような方向性が示されているのかが気になりました。
障害年金だけでなく、他の年金についても書類審査が基本です。実態がうまく伝わっていないのか、他の要因があるのか、報道では人的要因が指摘されていました。
今月は、万が一の時の命綱ともいえる障害年金について考えてみます。
簡単におさらいですが、障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、どちらに該当するか、また障害の程度によって支給内容が異なります。
障害基礎年金は、国民年金に加入している間、または20歳前や60歳以上65歳未満で日本に住んでいる間で年金制度に加入していない期間に、病気やけがで初めて医師の診療を受けた日(初診日)があり、一定の障害の状態にある場合に支給され、障害厚生年金は、厚生年金に加入している間に初診日があり、一定の障害の状態にある場合に支給されます。
障害年金を受給するための最も重要な要件は初診日要件です。障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師などの診療を受けた日(初診日)が、上記の各年金の加入期間中であることが必要ですが、いつが初診日か不明な案件も多く、それを立証することが難しいと聞きます。保険料の納付要件もありますが、このあたりをクリアすることが必要になり、ここが明確になっていればスムーズに進むと考えられます。
今回の不支給件数が増加した問題は、上記の要件や判定基準そのものの変更があったわけではないとされています。日本年金機構の内部からは、審査実務を担う担当部署のトップが交代し、より厳しい方針がとられるようになったことが原因ではないかとの指摘が上がっているとのことです。もしこれが事実であるとすると、初診日要件等をクリアしても日本年金機構の担当者の個人的な考え方によって恣意的に決められていることととらえられてしまうことになりかねませんので、真意を伺いたいところです。
障害年金は、2024年3月末時点で約242万人が受給しており、その約7割は精神障害、発達障害、知的障害のある方々です。年金が受けられるかどうかは、日々暮らしていく上で切実な問題になっています。
年金の支給判定は、日本年金機構から委託された判定医が書類審査によって行います。身体障がいの場合は比較的数値化しやすいものの、特に精神障害や発達障害の場合、判定医の裁量に委ねられる部分が大きいとされています。過去にも判定のばらつきが問題視され、2016年には判定ガイドラインが導入され、翌年には地域差をなくすために都道府県ごとに行われていた判定業務が東京に一元化されるといった経緯がありました。
しかし、今回の不支給急増に対し、厚生労働省と日本年金機構は「基準に基づき医師の医学的判断で適正に判定している」との見解で、判定の仕組みについては客観性や透明性が欠けているという指摘もあります。
精神疾患などが増加している時代でもあり、生活の基盤となる障害年金ですので、どうしてこのような数値になったのか説明が欲しいところです。
公的保険アドバイザー協会
理事 福島紀夫