職場の熱中症対策に罰則が適用されます

本年4月、厚生労働省が、「職場における熱中症対策」を罰則付きで事業者の義務とする改正省令を公布しました(労働安全衛生規則の一部)。対象となるのは、WBGT(暑さ指数)28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施が見込まれる作業となっています。これは、近年後を絶たない職場での熱中症死亡事例を踏まえれば、喫緊の課題への重要な一歩と言えるでしょう。特に、同省の死亡事例分析で指摘された発見の遅れや異常時の対応の不備を解消し、労働者の安全と健康を守るという強いメッセージが感じられます。今回は、この改正省令の内容を詳細に検討し、その意義と期待される効果、そして今後の課題について考えてまいります。
改正省令の意義と背景には、近年、地球温暖化の影響や、夏季の気温上昇、職場における熱中症リスクが年々高まっていることにあります。特に、屋外作業従事者や高温環境下での作業を行う労働者にとって、熱中症は深刻な健康被害、最悪の場合は死に至る可能性のある重大な労働災害です。
厚生労働省のデータが示すように、2022年から2024年までの3年間で、毎年30人前後の労働者が熱中症により命を落としている現状は、まさに看過できない事態です(厚生労働省「令和6年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」より)。
このような背景の下、従来の事業者の自主的な取り組みに委ねる形では、十分な対策が講じられないケースが散見されたと言わざるを得ません。今回の罰則付きでの義務化は、事業者に熱中症対策を「努力義務」ではなく「法的義務」として明確に位置づけることで、その責任をより一層重くし、実効性のある対策の実施を強く促すものと評価できます。
特に、死亡事例の分析から明らかになった「発見の遅れ」や「異常時の対応の不備」といった問題点に対し、今回の改正省令が直接的な対策を義務付けている点は注目すべき事項です。初期症状の早期発見と迅速な対応は、熱中症の重症化を防ぎ、労働者の命を守る上で極めて重要であり、これらの対策を事業者に義務付けることの意義は大きいと言えるでしょう。
今回の改正省令で事業者に義務付けられた内容は、以下の3点が柱となっています。
① 報告体制の整備: 熱中症の自覚症状や疑いのある人がいた場合、速やかに報告するための連絡先や担当者を事業所ごとに定めること
② 悪化防止措置の策定: 作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の処置や診察など、症状の悪化防止に必要な内容や手順を事業所ごとに定めること
③ 対策の周知: 上記の報告体制と悪化防止措置の内容を、労働者に対して周知徹底すること
これらの義務化は、熱中症発生時の初期対応の迅速化と、その後の適切な処置を組織的に行うための基盤を整備することを目的としています。
改正省令の施行日が2025年6月1日と定められたことは、夏季の熱中症発生リスクが高まる時期を前に、対策を講じるための猶予期間を設けたものと評価できますが、事業者への周知啓発が重要であることは間違いありません。
今回の義務化の内容を踏まえ、より具体的で効果的な予防策や、業種別の対策ガイドラインなどを検討することが望まれますし、自分自身で自分自身を、また家族を守る対策を本気で考えないと、暑い夏は越せそうにないかもしれませんね。
公的保険アドバイザー協会
理事 福島紀夫