厚生年金保険料の上限引き上げについて

税・社会保障 2025/03/01

近年、日本の社会保障制度の持続可能性の問題が注目されています。少子高齢化の進行により、現役世代の負担が増大する中、特に高所得者層の厚生年金保険料の引き上げや、高額療養費の負担限度額の見直しが議論されています。


昨年の年金に関する財政検証で示されていますが、厚生年金保険は持続可能とされてはいましたし、なぜ今保険料等級の引き上げが話題になってきているのかなどを考えてみたいと思います。


まず、高所得者層の厚生年金保険料の引き上げの背景を見てみましょう。厚生年金保険は、現役世代が保険料を納め、高齢者が年金を受給する、世代間扶養の仕組みになっています。最近話題の賃金の引き上げなどの状況により検討することが法令によって決まっていることから、引き上げの議論になっています。


今回の引き上げは、所得比例の原則を適用し、負担能力に応じた公平な3制度を実現する狙いがあります。これによって、高所得者層の負担増加により、年金給付の財源を安定させることで年金財政の健全化が図れること、若年層や低所得者層の負担軽減を図りつつ、社会全体で支え合う仕組みを強化でき、世代間での公平化が保てること、高所得者層がより多く負担することで、社会全体の公平性を向上させることなどが考えられますが、高所得者層の方からは一定の反対意見も多く出そうです。


現在の厚生年金保険料の最高等級は65万円です。ちなみに、健康保険料の最高等級は139万円と幅が広いのですが、この違いには、厚生年金は標準報酬が年金に直接影響があることに対し、健康保険は給付水準にあまり影響を受けないことがこの理由といえます。


厚生年金保険の等級については、被保険者全体の平均標準報酬月額の概ね2倍になる額が最高等級を上回る状態が続くと認められたときに上がることになっています。直近では、2022年に引き上げられています。今回の議論ではその考え方によって進められていることになります。


標準報酬月額の分布図を確認すると、2023年度末現在ですが上限の65万円を超えている方が279万人、全体の6.5%を占める状態が続いており、それによって検討されていることと、その方たちの4割が賞与を支払われていないとのことで、賞与からも保険料を納めるという本来の考え方との乖離が発生していることが見直すことの根底にあります。


厚生労働省では、現在の65万円の等級が10万円上がって75万円にする想定で審議を始めたとのことで、その試算によると、仮に20年間納めたこととなった場合、保険料負担は年間10万円強増加することに対し、年金の給付は年間12万円強増加するとしています。


給付が増えることは嬉しいことですが、個人の負担もそれなりに増えることと、事業主負担も同時に増えることになりますので、上がることを避けるような方針が取られないように気をつけなければならない問題も生まれることになります。


保険料収入が増加することでの給付のバランスも国は考えていることとは思いますが、厚生年金保険料の引き上げの裏側にはこのような理由が存在していることを考えると、世間の賃金相場が上がることは喜ばしいことと受け止めていきたいと思うところです。


公的保険アドバイザー協会

理事 福島紀夫