今年の最低賃金がもたらすものは
毎年10月になると更新されるものが「最低賃金」です。国は、全国平均を1000円にすると公表して数年が経過しましたが、とうとうその時がやってきそうです。今回の改正は、これまでの上げ幅とは異なり、国が目安とした金額に上乗せをする自治体が多くあることです。地方では人材の流出が深刻で、最低賃金を引き上げることで人材確保に努めようとする姿勢が見えてきます。
一方で、賃金が上がることで、先月お伝えした「年収の壁」問題も、違った見方で浮上してきそうです。
今月は、最低賃金の引き上げから見る、今年の年末を考えてみます。
筆者が高校生の時にアルバイトを始めた時の最低賃金は422円(東京都賃金)でした。その時の全国平均は379円。その後大学生になっても463円と、大幅に上がった感じはしません。平成に入りバブルの影響なのか26円も上がった年がありました。しかし、それ以降はそんなに大きく上がることなく、2000年に入ってからは上がらない年も数年続いたことがあり、全国平均を1000円にするのは先の話と考えていました。
今回の引き上げでは、東京、神奈川の大都市圏が41円引き上げで1113円(東京都賃金)、地方においても同様かそれ以上の引き上げで、島根、佐賀は47円の最高額となっています。これまでは、毎年上がっても25〜30円の間を推移していましたので、全国平均はもう先と思っていたのですが一気に進んだということになります。
東京に隣接する千葉では、都内にすぐに行けることもあり、90円の時給の差を求めて人材が都内に流出してしまうと事業主が嘆いていたことを記憶しています。
そこが、1000円を超えることになると、大きな人材流出が抑えられ解消につながるとも考えられます。
物価の高騰や石油関連の不足等もあり生活物価が上がってきたことが大きな理由の一つではあると思うのですが、手放しで喜べないのが事業主であり、年収の壁際で働く方ではないでしょうか。
近年、都内でパート、アルバイトの募集を見かけると、以前に比べて高い金額になっていることがわかります。しかし、それでも人材は集まらず、業種によって雇用のミスマッチが起きています。更に上げようとすると経営を圧迫することになり、大きな悩みにつながっています。
また、年収の壁際で働く方にとっても、最低賃金の引き上げで受けられる控除が減ることがどのように見えるのかも問題になりそうです。
仮に、健康保険の被扶養者の範囲内で働く130万円未満で働く方を考えてみましょう。時給1200円、週4日、1日あたり5時間、年間52週とすると年間124.8万円、これが100円アップの1300円になると年額で135.2万円となり、扶養の範囲を超えてしまうことになってしまいます。すでに税額控除のいくらかの減額を受けていますので、時間を減らすのか、それ以上に働くのかの選択に迫られることになります。
この誌面でも何度かお伝えしていますが、私たちの考え方は働いて公的保険のメリットを享受しながら将来の自分への仕送りを作っていくことです。
今回の最低賃金の引き上げによって働くことを調整するのではなく、もっと高い自分の将来を目指して考え方を変えていくことと考えています。
最低賃金の引き上げがもたらすのは、みなさんの明るい未来であることを期待したいですね。
公的保険アドバイザー協会
理事 福島紀夫