失業時の給付手当が改正検討へ
2023年5月、内閣の「新しい資本主義実現会議」において雇用保険の失業給付について、自己都合退職の場合の制度見直しの議論が行われました。見直す目的は何か、どのように変わるのか現行の制度を確認しながら解説します。
失業給付の仕組み
「失業給付」や「失業手当」とよく言われる失業時の給付金ですが、正しくは「基本手当」と言います。基本手当は、失業中の生活を安定させることで、1日でも早く再就職できるよう支給される雇用保険の手当です。収入がなくては安心して求職活動を行えないため、失業という保険事故が発生した場合に支給されます。
「失業」とは、働く意思と能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態をいうため、病気や怪我で働けない場合や、しばらく休業する場合などは失業状態とは言えず、基本手当支給対象外となります。
自己都合退職と会社都合退職での基本手当の違い
基本手当は自己都合退職か会社都合退職かによって支給内容に差があります。ここで言う会社都合退職とは、倒産や解雇によって離職した「特定受給資格者」、労働契約期間の満了や病気や怪我のために離職した「特定理由離職者」に該当するような退職を言います。
たとえば、給付日数については自己都合退職より特定受給資格者や特定理由離職者の方が長いですし、基本手当が給付されるタイミングも特定受給資格者や特定理由離職者の方が早いです。今回の見直しは、この給付のタイミングを見直す内容です。
基本手当を受給するには、離職票を提出し求職申込を行った日から通算して7日間の待期期間があります。この待期期間は、離職の理由によらず、誰でも適用されます。そして、待期期間が終了した翌日から基本手当が支給されます。しかし、自己都合退職の場合や自己の責任による重大な理由で解雇された場合は、翌日から支給されず待期期間終了の2〜3か月経過した後に支給されるというルールになっています。
見直しの内容
今回見直しが検討されているのは、自己都合退職の場合の2〜3か月の給付制限についてです。令和5年5月16日の「新しい資本主義実現会議」の「三位一体の労働市場改革の指針(案)」において
“失業給付の申請時点から遡って例えば1年以内にリ・ スキリングに取り組んでいた場合などについて会社都合の場合と同じ扱いとするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う”
出典:新しい資本主義実現会議「三位一体の労働市場改革の指針(案)
とされています。
具体的な内容についてはまだ決まっていませんが、成長分野への労働移動を円滑化することが目的のようです。成長分野へ労働が移動することで、キャリアアップ、賃金アップの転職を促すことができます。労働移動によって労働力が効率的に活用され経済も成長することになるでしょう。ただ、会議では基本手当は失業者の生活を安定させるためのものであるから、労働移動を促すために見直しを検討するものではないという意見もあるようです。
また、次の職場を決めてから退職する場合は基本手当を受給することはありませんし、リ・ スキリングやキャリアアップを目指す労働者は、むしろ転職先を決めてから転職したり、ヘッドハンティングされたり、基本手当とは無縁な人も多いかもしれません。ただ、見直しによって収入の心配がなくなるため、転職のハードルは低くなるでしょう。
とはいえ、無条件で基本手当の支給が早期化されるわけではなさそうですし、今後どのような改正が行われるのか注目したいところです。
公的保険アドバイザー
前田菜緒