年収が106万円を超えそう!扶養の範囲を超えそうな時の考え方

税・社会保障 2021/04/05

「あと2ヵ月、この給与水準が続くと、あなたは社会保険加入の対象となります。」パートで働く愛さんがタイムカードを押したら、アテンションが出てびっくりしました。メッセージが扶養の範囲を超えるとことを意味するものだと何となく分かったものの、どうすれば良いのか分かりません。扶養の範囲を超えたらどうなるのか、愛さんを例にお伝えします。


2種類の扶養がある

扶養には、税制上の扶養と社会保険上の扶養の2種類があります。しかし、多くの人が2つの扶養を同じ問題として捉えています。愛さんも「扶養の範囲を超えると夫の税金が増えるの?」(税制上の扶養)、「自分で保険料を納めないといけないの?」(社会保険上の扶養)と、扶養に関する情報が、頭の中で絡み合っているようでした。

確かに、扶養内で働いている人にとって、収入の増減は税金にも、社会保険にも影響与えるケースが多いですが、両者は、扶養の範囲である上限金額も、仕組みも異なるため、両方一緒に考えることができません。愛さんの場合、税制上の扶養の上限額を超えなかったので税金の影響はほとんどないと思われます。したがって 社会保険の扶養についてお伝えしました。


106万円の壁とは

愛さんが働いているのは、従業員が1000人以上いる大きな会社です。自分で社会保険料を納める年収は基本的に130万円ですが、従業員が501人以上(2022年10月からは101人以上)の企業の場合、この上限が106万円に下がります。 

ここで社会保険加入の条件を確認すると
①月額賃金が8.8 万円以上
②週の所定労働時間が20時間以上
③2ヶ月以上の雇用の見込みがある
④学生ではない

これら全てに当てはまると社会保険に加入することになります。愛さんは、毎月7万円程度の収入だったそうですが、最近は忙しくて9万円の月が2ヶ月ほど続いたそうです。そして今後もこの状況は続きそうとのこと。すると上記の条件全て満たすので社会保険の加入の必要があります。


社会保険に加入するとどうなる?

では、社会保険に加入するとどうなるのでしょうか。加入する社会保険は、主に2種類です。
1.厚生年金
2.健康保険

1.厚生年金
厚生年金に加入すると、まず老後の年金が増えます。厚生年金に加入していない場合、老後の年金は老齢基礎年金のみです。しかし、加入することにより、老齢厚生年金も受け取れるようになります。また、障害を負ったときの障害年金や、万一の時に家族が受け取る遺族年金も増えます。

2.健康保険
健康保険に加入すると、病気などで4日以上働けなくなると、給料の3分の2の金額を傷病手当金として受け取ることができます。時給で働く愛さんにとって、これは非常に貴重な制度です。なお、愛さんは、今後出産することはないとのことでしたが、産休中の出産手当金も健康保険から支給されるお金です。

そして気になる保険料ですが、厚生年金と健康保険、両方合わせて給料の約30%です。しかし、保険料は会社と自分で折半しますから、本人負担は約15%です。


社会保険に加入することは、損ではない

愛さんは、この15%の保険料を納めると家計の出費が多くなるので、扶養の範囲で働いていますが、それは保険料を納めるメリットを知らないからでした。年金(老齢・障害・遺族年金)や傷病手当金を受け取るときは、一般的には、収入が激減した時です。本当に生活が困った時に受け取ることになります。普段、私たちはそのようなリスクを考えながら生活はしていませんが、収入がないリスクは非常に大きいと容易に想像ができます。

そう考えると、いくら保険料を払って、いくら給付を受けられるのかといった損得の問題ではないことも分かります。しかも、収入の上限を突破するので、その範囲に収入を抑える必要はなくなり より家計収入を増やすことができます。

愛さんは、「保険料って、単純に払いたくないと思っていたし、ものすごく高いものだと思ってた。でも、保険料を払うことで得られる保障も大きいのね」とおっしゃっていました。扶養を超えると、損をすると思っていた愛さんですが、そうではないことを知り、夫と相談してみるとおっしゃいました。

扶養の範囲内で働くことは、決してオトクではありません。家族と自分の将来と今を考え、その上で、どのような働き方をしていきたいのか、自分自身が働きたい形で働くことがベストな選択肢であると思います。

公的保険アドバイザー 前田菜緒