2026年診療報酬改定で見える「医療の価値」と私たちの備え
医師をはじめとする医療従事者の働き方改革が始まって、日本の医療制度は大きな転換期を迎えました。一人ひとりの医療従事者の崇高な考え方に支えられてきましたが、それぞれのワークライフバランスを整えていく中で、健康を保持していくことがメインとして進められています。
そんな中で、2年に一度の割合で「診療報酬」が改定されており、定期的な見直しがなされていますが、今回2026年の診療報酬改定は、近年では比較的大きなプラス改定となりました(本体3.09%増)。
しかし、この「プラス」という言葉は、患者側の財布にとっては必ずしもポジティブな意味だけではありませんので、これまで以上に「コスト」と「責任」が伴うことを理解しておかなければなりません。
今月は、改定後のメリット・デメリットを整理しながら、救急医療現場の変化と私たちが取るべき行動について考えてみます。
今回の改定の最大の柱は「医療従事者の賃上げ」です。看護師や技師、事務スタッフなど、医療を支える人々の処遇を改善しなければ、地域医療そのものが崩壊してしまうという危機感が背景にあります。
労働力人口が減少する中で、医療機関の人材不足も重大な課題となっています。医療従事者の人材確保と離職が抑えられることで、安全で手厚い看護が維持されることになり、受診する側のメリットとして享受できます。また、医療DXの加速により、マイナ保険証を活用したデータ連携が進み、無駄な検査や薬の重複が防げるようになるなど、医療の質自体は向上する傾向にあります。
反対に、デメリットとして考えられることは、医療の質を維持するための「対価」として、窓口負担が増加します。再診料の引き上げに加え、新たに導入された「物価対応加算」などは、1回の受診では数十円の差ですが、持病を持つ方や高齢者世帯にとっては、月々の固定費として重くのしかかります。さらに、入院時の食費や光熱費の自己負担額も引き上げられ、病院は「病気を治す場所」としての機能に特化し、長期療養の場としてはますます高価な選択肢となっています。
次に、急な病気になった際、最も気になるのが「救急車」にまつわる費用です。2026年現在、日本において救急車を呼ぶこと自体は依然として「無料」です。しかし、病院に到着した後の「精算」で大きな変化が起きることになります。
今回の改定で加速しそうなのが、救急搬送時における「選定療養費」の徴収です。これは、紹介状なしで200症以上の大病院を受診した際に支払う「特別料金」のことですが、これからは、救急車で運ばれたとしても、入院に至らない軽症の場合には、一部地域や医療機関では、軽症患者による救急利用の適正化を目的として、選定療養費を徴収する運用が、さらに広がっていくと思われます。
かつては「救急車で行けば待ち時間もない」という考えを持つ人もいましたが、これからはその逆です。自力で夜間診療所へ行くよりも、救急車を呼んで「軽症」と診断される方が、救急搬送に関わる管理料や特別料金が加算される分、数千円から1万円以上も高くなる可能性があることも理解しておかなければなりません。
このように、今後の医療制度は、「必要な医療を守りながら、制度全体を持続可能にしていく」という方向へ進んでいます。その中で私たちに求められるのは、制度を正しく理解し、適切に活用することです。
急な病気や入院は誰にでも起こり得ます。その時に慌てないためにも、公的医療保険制度の基本的な仕組みを知っておくことが、これからの時代にはますます大切になると考えます。
公的保険アドバイザー協会
理事 福島紀夫