労災申請が不支給決定となった場合の対応

労働・雇用 2026/04/01

近年、労災申請の中でも増加しているのが、うつ病や適応障害などの精神障害事案です。しかし、これらの事案は身体疾患と比較して支給決定のハードルが高いのが実情です。その理由は、因果関係の立証が「見えにくい」点にあります。

今月は、増加傾向にある精神障害の労災認定を踏まえつつ、不支給決定となった場合の対応について考えてみます。


精神障害の労災認定は、①対象となる精神障害を発病していること、②発病前おおむね6か月間に強い心理的負荷が認められること、③業務以外の要因により発病したとは認められないこと、の3要件で判断されます。


ここでの最大のポイントは「心理的負荷の強度評価」です。精神障害の認定では、単に「つらかった」「大変だった」という主観ではなく、どのような出来事があったのか、それがどの程度の心理的負荷と評価されるのかが、評価表に基づいて判断されるとされています。


例えば、上司からの継続的な叱責やハラスメント、長時間労働、重大な事故やクレーム対応、配置転換や役割の大きな変化などは、認定基準上「強」または「中」の心理的負荷として評価される可能性があります。

したがって重要なのは、出来事を認定基準に当てはめて整理することです。


精神障害事案では、出来事の具体性の不足が見落とされがちです。「忙しかった」ではなく「一日当たりの対応件数や連日の時間外労働時間」、「上司が厳しかった」ではなく「具体的な発言内容や頻度、期間」など、客観化・数値化することが不可欠です。

また、精神障害の審査では、発症時期、出来事の発生時期、症状の悪化過程の整合性が厳しく確認されます。そのため、「いつ・何が・どのように起きたか」を時系列で整理することが重要です。


さらに、家庭問題や私的トラブル、既往歴などの業務外要因も考慮されますが、これらが存在する場合でも業務起因性が直ちに否定されるわけではありません。業務による負荷の強度と業務外要因との関係を比較し、総合的に評価する視点が求められます。


このように精神障害の労災認定には丁寧な整理と立証が必要となりますが、それでもなお不支給決定となるケースは少なくありません。不支給決定がなされた場合、その時点で手続や支援が止まってしまうことも見受けられますが、制度上は救済の手段が用意されています。それが「審査請求」です。


審査請求は、労働基準監督署長の決定に対して、都道府県労働局の労災保険審査官に申し立てる不服申立て制度であり、処分を知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります。実務上、この審査請求によって判断が見直される事例も一定数存在します。


重要なのは、不支給となった理由を正確に把握し、それに対して論理的に再構成を行うことです。例えば、医学的因果関係の立証が不十分とされたのか、業務負荷の評価が低く見積もられているのか、事実関係の認定に誤りがあるのかといった点を精査し、それぞれに対応した主張と証拠を準備する必要があります。


不支給決定があったとしても、それが最終的な結論とは限りません。制度の仕組みを正しく理解し、否認理由を精査した上で適切に対応することで、結論が変わる可能性もあります。制度を説明するだけでなく、結果につなげる支援を行う視点が今後ますます重要になるといえるでしょう。


公的保険アドバイザー協会
理事 福島紀夫