副業・兼業ガイドラインのポイント整理

労働・雇用 2025/10/01

近年、副業・兼業(以下「副業等」)は日本の労働市場における重要なテーマとなっています。少子高齢化に伴う労働力不足への対応、働き手のキャリア形成支援、そして多様な働き方の実現を背景に、政府は副業等解禁を推進し、厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定しています。従来は、本業への支障や、情報漏洩を理由に禁止されることが多かったのですが、今や「原則容認」への流れが広がっています。その一方で、労務管理や社会保険・労災など、公的保険の面での扱いに課題が生じるケースもあります。今回は、本年(2025年)3月に改定されたガイドラインのポイントを踏まえつつ、実務上特に注意すべき点を整理してまいります。


 副業等業における最大の課題は「労働時間管理」です。労働基準法では、副業等も含めた労働時間を通算する必要があります。本業8時間、副業等4時間であれば合計12時間となり、割増賃金の対象になります。


 ある企業では、労働時間の通算において、それぞれの36協定の範囲内に収めることや、従たる先での時間外労働の割増賃金については、従たる先にて支払うことなどを、副業等許可の通知書に示すところもあります。


 それくらい、労働時間の通算は煩雑になるにもかかわらず、実務では、企業が他社での労働時間を把握することは難しく、ガイドラインでは労働者による申告と使用者による調整が求められています。過労死防止の観点からも、労使双方の協力体制が不可欠です。健康診断やストレスチェックは主たる雇用先が責任を負うため、副業等の状況を踏まえた配慮も必要です。


 労災は発生した事業場で適用されます。本業先での事故は本業の労災、副業等先での事故は副業等先の労災です。ただし、現在は複数の事業場で働いていた場合、給付額を算出するにあたり該当する複数の事業場で受ける賃金を合算して給付額が決まることや、一つの事業場での業務上の負荷によって業務災害にならないとされた場合でも、複数の事業場の負荷を総合的に判断して複数業務要因災害にあたるかどうかで労災認定されることになっています。


 過労死や精神障害のように複数の勤務先での長時間労働が原因となる場合には、通算した労働時間を基に認定されることがあります。通勤災害についても、副業先と本業先間の移動が「合理的経路」と認められるかどうかが判断の分かれ目です。


 副業等の解禁を進めるには、就業規則の見直しが不可欠です。禁止を維持する場合には合理的理由を明示する必要があります。実際には、事前届出制や競業避止義務との調整を行いながら、労使の信頼関係を構築することが大切です。


実際の運用では、事前届出制や副業先の内容確認、競業避止義務との関係整理が求められます。さらに、労働者側にとっても「副業等業が本業の評価に影響しないか」という不安がありますので、労使間での信頼関係と透明性あるルール作りが重要です。


副業等は労働者の収入増にとどまらず、キャリア形成や企業の人材活用の幅を広げる可能性を持っています。ただし、労働時間管理や社会保険・労災適用など複雑な論点も多いため、法制度の理解を踏まえた丁寧な運用が求められます。自分たちの労働環境を守るためにも、最新の制度を把握し、企業と労働者双方に持続可能な働き方を提案していくことが期待されます。


公的保険アドバイザー協会

理事 福島紀夫