遺族年金見直し報道による大きな勘違い、真実を解説

年金 2024/08/07

先日、ご相談者より「遺族年金が5年しかもらえなくなるとニュースで見ました。私が死亡したら、妻は生きていけるのでしょうか。」という質問を受けました。結論から言うと、このご相談者には全く関係のないニュースなのですが、ネットでは甚だしい勘違いにより改悪だとのコメントも多いようです。そこで、遺族年金は、どう変わろうとしているのか真実をお伝えします。

 
見直しが検討されている内容

現在、見直しが検討されている内容は、①子のない配偶者への遺族厚生年金、②男性は受け取ることができない中高齢寡婦加算、③子に対する遺族基礎年金、です。このうち①の内容が大きく報道され、勘違いも多いようですから、このコラムでは①の内容についてお伝えします。

見直しが検討されているのは、20〜50代で子のない夫婦の遺族厚生年金です。遺族年金で言う子とは18歳以下の子、障害等級1級・2級の20歳未満の子をいうため、該当する子がいる場合や60代以上の家庭は現行通りであり今回の見直しには関係はありません。冒頭で、相談者から質問されたものの、相談者には関係のないニュースであるとお伝えしましたが、それはこの相談者の子が小学生だったからです。

さて、見直しされている内容は20〜50代の子のない配偶者がなくなった場合に受け取れる遺族厚生年金を男女とも5年に統一するというものです。なぜなら、現在の制度では男性か女性かによって遺族年金を受け取れる年数が違うからです そのため、男女差をなくす目的で検討されました。

 
現行制度の確認

では、現行制度はどのような内容になっているのでしょうか。配偶者がいるケースにおいて、遺族厚生年金を受け取れるのは、下記の対象者および支給内容となっています。

 

・夫を亡くした30歳未満の子のない妻は5年間の給付
・夫を亡くした30歳以上の子のない妻は生涯受け取れる
・妻を亡くした55歳未満の子のない夫は給付なし
・妻を亡くした55歳以上の夫は60歳から給付

 
の4パターンです。上記を見ていただくと、女性がかなり優遇されているのがわかると思います。これは、現行の年金制度は、夫が外で働き妻は専業主婦の家庭が多い時代背景のもとに作られたためです。しかし、現代では男女の賃金差はあるものの、妻が専業主婦である世帯は減少傾向にあります。そこで、制度も現代版に新しく男女関係なく20〜50代で子がいない場合は5年間の給付に統一すると見直され始めました。

 
とはいえ、男女間で働き方に違いがあるのも確かです。女性は非正規雇用のケースも多く、男女同等の働き方とは言えないのが現状です。そのため、相当な時間をかけて(20年)、段階的に施行するとの方向性で検討されています。

 
このように古い制度を現在の時代に合わせて変えていこうという動きであり、ブーイングが起こるような内容ではありません。しかし、批判的なコメントが多くよせられています。そこで、正しい知識を持ってもらうべく、コメントに対して解説します。

 
「少子化が進む」というコメント

この見直しによって少子化がさらに進むというコメントがあるようです。それは「遺族厚生年金が5年しか支給されないなら、子どもを育てられないから。」だそうです。何度も言いますが、見直し対象となるのは子がいない20〜50代です。子がいれば、遺族厚生年金だけでなく遺族基礎年金も支給されます。

また、この見直しにより「子どもを生まないで、仕事に専念しようと言う人が増え、少子化が加速する。」「こんな時代になるなら、結婚せず、子どもも生まず、正社員で働いておけばよかった。」との書き込みもあるようですが、もはや意味不明です。

 
「50代で夫を亡くしたら、5年しか支給されない」というコメント

また50代でパート、子どもは18歳以上、夫に先立たれたら5年で給付が終了するのか!との書き込みもありますが、今すぐ変わるわけではありません。パートで働いている人も多いため、「配慮が必要であり、相当な時間をかけて段階的に対象年齢を引き上げる必要がある」と検討されています。

それに、遺族年金がゼロになるわけではありません。5年間は支給されます。そこで、少し考えて欲しいのです。50代であれば、これからの人生はまだ長いです。子が独立し、夫を亡くしたという状況だと、これからどのように人生を歩むでしょうか。

おそらく1人で生きていくために、仕事をすると思います。いえ、自立して生きる力をつけるために、自分一人で生きていけるだけの収入は得ないといけないのです。その自立の準備期間として5年間の遺族給付があるのです。5年間は長いとは言えませんが、決して短くはないでしょう。実際、離婚するために自立が必要で、50代で正社員になったという相談者を何人も見てきましたが、正社員になるまで5年もかかっていません。

一人で生きていくなら、遺族年金は補助でしかなく、柱となる収入は自分で作っていくものです。相当な時間をかけたころには、女性の働き方も変化していることでしょう。

 
「私の老後オワッタ。遺族年金だけが頼りだったのに」というコメント

冒頭でもお伝えしましたが、60歳以降の遺族年金は見直し対象となっていません。どこをどう読み間違えたのか、オワッているのは老後ではなく読解力でしょう。

 
批判的な記事に惑わされない

年金制度は複雑です。特に遺族年金は複雑です。間違った知識を持つと自分の将来設計にも悪影響がありますから、最低限の知識は身に付けておきたいですね。アクセスを集めるためだけの年金を批判した記事に惑わされず、自分の将来設計を作っていきましょう。

 

公的保険アドバイザー
前田菜緒