年金は「最高でも月額28万円」の真実は・・・

年金 2023/07/07

筆者は公的保険アドバイザーとして、老後の生活設計について相談を受けることが多々ありますが、年金に対して誤った認識を持っているがゆえに、老後を必要以上に不安がっている人は少なくありません。

先日も「政府が年金支給を抑制しているので、年金は多くても28万円しかもらえないのですよね?」とおっしゃっていたお客様がいました。しかし、これは100%間違ってはいないものの、大部分において正しくはありません。


28万円は間違いとも言えないが

お客様が言った言葉の中で、間違っていないとも言えないのが「28万円」という数字です。老後の年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類ですが、老齢基礎年金は、20歳から60歳まで国民年金をきっちり納めると65歳から月額約6.5万円を受け取ることになります。

一方、老齢厚生年金は年収と厚生年金加入期間に比例します。年金受給額の計算式を見ると分かりやすいでしょう。下記は、簡易的な年金受給額の計算式です。

65歳からの老齢厚生年金=厚生年金加入中の平均年収×加入年数×0.55%

つまり、年収が高いほど、加入期間が長いほど老齢厚生年金は増えるということです。しかし、厚生年金に加入できるのは、原則70歳までですから加入年数には上限があります。同様に、平均年収にも上限があります。

厚生年金保険料は給料が増えると納める保険料も増える仕組みですが、年収が約1,200万円を超えると保険料はそれ以上増えません。つまり、年収1,200万円の人も2,000万円の人も負担する保険料は同じということです。負担する保険料が同じなら、受け取る年金も同じ金額です。したがって、上記の計算式の平均年収の上限は1,200万円ということになります。


28万円の根拠は

では、仮に20歳から60歳まで40年間、年収1,200万円以上で会社員をしてきたとすると、年金受取額はいくらになるでしょうか?

老齢基礎年金は満額で月額約6.5万円です。老齢厚生年金は先述の計算式に当てはめて計算すると

1,200万円×40年×0.55%=264万円/年  

月額換算で22万円です。上記の計算より、老齢基礎年金6.5万円と老齢厚生年金22万円を合計すると月額約28万円になりました。おそらく、お客様が見た記事は、このような計算のもと28万円を導き出していたのだと思われます。

しかし、20歳から60歳まで40年間絶えず1,200万円以上の収入で働いている人は、かなりの少数派でしょうし、20歳前から働く人もいれば、60歳以上も働く人もいます。「28万円」という数字は、自分自身のライフプランにおいて何の影響も持たない数字なのです。


「政府が年金抑制をする」の真実は

また「年金支給を抑制するために」という理由は大きな誤りです。確かに、年金給付水準を調整するマクロ経済スライドという仕組みは存在します。しかし、マクロ経済スライドは物価や賃金に連動して、その年の年金額を調整する制度で、年金制度を持続可能にするための仕組みです。

一方、28万円の根拠は先ほど述べた通りで、政府が抑制しているから28万円になっているわけではありません。年金支給の計算式にのっとって計算した結果から導き出された数字でしかありません。したがって、「年金支給を抑制するために28万円以上支給しない」というのは間違いです。かりに、年金支給額の上限が28万円と考えたとしても、その根拠は年金支給を抑制するためではないということを知れば、年金不安や年金への理解度は変わるのではないでしょうか。


年金不安をあおる記事に惑わされない

年金に関する情報は不安をあおるものが多く、必ずしも正しいと言えない情報も多くあります。しかし、老後の生活設計に大切な事は、まずは自分の年金を知ること、そして、厚生年金加入期間や年収によって年金額が変わることを知ることです。

実際、お客様自身も自分の年金額を知り、老後の生活費を見積もることによって問題なく生活できることが分かりました。破綻すると思っていた老後が予想と大きく異なる結果に驚いていましたが、自分の老後を見積もれば不安が解消される事は多々あります。

年金に関する情報が正しいのか正しくないのか、ネット上に溢れている記事を見極めることは難しいかも知れませんが、自分の年金を知ることは難しくありません。50代ならねんきん定期便で確認できますし、50代未満なら、ねんきんネットや公的年金シミュレーターでシミュレーションできます。一度、ご自身の年金を確認してみてはいかがでしょうか。

 

公的保険アドバイザー 前田菜緒