年金分割で年金が50万円減少?年金分割前後で年金はどう変化する?

年金 2023/03/09

「妻と離婚の話を進めています。年金分割の話になり、分割すると年金がどれだけ減るのか不安になり、相談にきました。」公的保険アドバイザーの筆者のもとに57歳の誠さんが相談に来られました。どうやら離婚した会社の友人から、「年金分割したら年金が年間50万円も減った」と聞き、不安になったようです。そこで、実際どの程度年金額が変化するのか、年金分割の仕組みや分割前後の年金について誠さんの例を見ながら解説します。
 

離婚時の年金分割の仕組み

誠さんは結婚28年、下のお子さんが大学生になったのをきっかけに、妻の洋子さんから離婚を切り出されたとのことです。夫婦仲は決して良いとは言えず、誠さんも離婚に応じて現在お金周りのことを整理中とのことでした。

その中で、年金分割の話になり、分割すると年金がどれだけ減るのか不安になられたそうです。そこで、相談時に、ねんきん定期便を持参いただき、 誠さんに年金分割の仕組みをお伝えしました。

誠さんのねんきん定期便より

洋子さんのねんきん定期便より

ねんきん定期便には、65歳から受け取る老齢基礎年金と老齢厚生年金の見込み額が記載されていますが、年金分割の対象となるのは老齢厚生年金です。老齢基礎年金は20歳になったら加入する国民年金にあたるもので分割対象外です。

老齢厚生年金の金額は、誠さん約149万円、洋子さん約89万円で「分割は、厚生年金の金額を足して2で割って計算するのでしょうか。」と誠さんは言います。しかし、分割対象となるのは婚姻期間分のみであり、正確には足して2で割った金額にはなりません。

誠さんが結婚したのは29歳のときですから、就職〜29歳までの期間は独身のため分割対象外です。また、定期便には今と同じ給料、働き方が60歳まで続けばという前提で65歳から受け取れる年金額が記載されています。したがって、離婚後〜60歳までの期間も分割対象外であり、これら期間分の金額を除く必要があります。

なお、誠さんも洋子さんも国民年金第3号被保険者であった期間はありませんが、どちらかに第3号被保険者期間があった場合「3号分割制度」を利用でき、この場合、分割対象となるのは平成20年4月1日以後の婚姻期間中の年金記録となります。

年金分割の正確な金額は把握することは難しいため年金事務所に行って「年金分割のための情報提供請求書」を提出し、事前に分割後の年金情報を得ておくと良いでしょう。

年金分割した場合の計算をしてみると・・・

後日、誠さんには年金事務所に行っていただくとして、今離婚したとして、年金分割の目安額を計算してみました。分割の対象となるのは、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)です。分かりやすく言うと、婚姻期間中の平均年収を分け合うということです。

老齢厚生年金は、「年収×厚生年金に加入して働いた期間×0.55%」という数式で簡易計算が可能です。分割対象となるのは、この年収にあたる部分です。仮に 婚姻期間中の誠さんの平均年収が600万円、洋子さんの平均年収が400万円として、半分ずつに分けるなら誠さんの年収のうち100万円分を洋子さんに、洋子さんはその100万円を上乗せして、2人とも年収500万円だったとして年金が計算されます。

この場合、誠さんの婚姻期間分にあたる年金は
分割前 600万円× 28年(婚姻期間)× 0.55% = 924,000円①
分割後 500万円× 28年(婚姻期間)× 0.55%=770,000円②
となるでしょう。

誠さんの老後の年金全体を考えるなら、ここに婚姻期間外の年金が上乗せされます。婚姻期間外の厚生年金は、ねんきん定期便の厚生年金約149万円から婚姻期間分の年金①92万円を差し引いた金額ですから、57万円です。したがって分割後の年金目安総額は、

57万円(婚姻期間外の老齢厚生年金)+77万円(②)+71万円(老齢基礎年金)=205万円

程度になると予想できます。

分割前の年金総額が約220円、分割後は約205万円ですから、その差は年間約15万円です。年金分割すると約15万円減ることになりますが、誠さんは「年間15万円程度ですか?」と意外な表情で質問されました。離婚した友人から年金分割で年間50万円減ったと聞いていたため、15万円しか減らないのかと意外だったようです。

おそらく、友人の奥様は婚姻期間中、夫の扶養に入っていたのではないでしょうか。仮に、洋子さんも扶養に入っていたとすれば、婚姻期間中の平均年収600万円のうち、その半分300万円分の年金を分割することになりますから

300万円 × 28年 × 0.55%= 462,000円

となり、友人の言う50万円の金額に近くなります。妻が扶養に入っているか入っていないかで分割金額は大きく異なるのです。誠さんは、離婚は決まったものの「妻が長年、正社員として働いてくれたことに感謝しないといけないとな。」と言っていました。
 

建設的に考えるために年金額を知る

年金は減る、年金はあてにならない、など年金に対して誤解されている方はたくさんいます。しかし、今回の誠さんのように、年金を知ることで誤解による不安は解消されます。また、誠さんご夫婦においても、無駄に争うことなく、建設的に話し合いを進められるのが一番です。夫婦とも納得できる解決策を見つけられることを願います。

 

公的保険アドバイザー 前田菜緒