65歳まで離婚を待てば分割される年金は増えますか?
「夫が65歳になると加給年金という年金の上乗せ金があると聞きました。夫と離婚したいと思っているのですが、年金分割を考えると65歳まで待った方が良いのでしょうか。」公的保険アドバイザーである筆者のもとに、62歳の夫と別れたいと言う52歳のAさんが相談に訪れました。Aさんのケースの年金分割と年金面からの離婚タイミングについてお伝えをさせていただきました。
加給年金は生計維持関係がある場合に支給される加算金
Aさんが言う加給年金とは、厚生年金の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳になった時、生計を維持されている65歳未満の配偶者や18歳以下の子どもがいる場合に年金に上乗せされる年金の家族手当です。
Aさんは加給年金について、どうやら誤解をされているようです。なぜなら、加給年金は生計維持関係がある夫婦に加算されるものだからです。離婚した場合は、夫婦でもなく生計維持関係もなくなりますから、夫に加給年金は支給されません。また、加給年金の金額自体は分割の対象でもありません。
一方、離婚しても年金に上乗せして支給される振替加算という制度があります。加給年金の対象だった配偶者が65歳になると、加給年金は終了しますが、その代わり配偶者の年金に振替加算が上乗せされます。振替加算の場合は、支給された後に離婚したとしても支給は続きます。しかし、支給前に離婚すると65歳になったとしても支給されません。
とはいえ、振替加算が支給されるのは、昭和41年4月1日以前に生まれた人、かつ厚生年金加入期間が20年未満の人であるため、Aさんはこれら条件を満たさず対象外となります。
年金分割は婚姻期間中の厚生年金の記録を分ける制度
年金分割は婚姻期間中の厚生年金の記録を分け合う制度です。Aさんが専業主婦など、国民年金の第3号被保険者の場合には、相手の合意なしで平成20年4月1日からの婚姻期間中の夫の厚生年金の記録を半分ずつに分けることができます(3号分割)が、Aさんご夫婦は二人とも会社員で第2号被保険者であるため、3号分割はできません。
この場合は、婚姻期間中の厚生年金の記録を分け合う「合意分割」をすることができます。分け合った厚生年金の記録をもとに、老後の年金が計算される仕組みです。したがって、年金分割において、現在年金を受け取っているかどうかは関係ありません。つまり、Aさんは65歳まで離婚を待っても待たなくても、年金の分割は可能で、Aさんの「65歳になれば加給年金も分割対象になる」という解釈は誤解なのです。
Aさんは年金分割しない方が良い
今回Aさんが離婚したいと思ったきっかけは、子どもの独立です。しかし、それはきっかけにすぎず、本当の原因は夫の仕事への態度でした。もともと、仕事への熱意は低く、給料はAさんと同じレベルかそれ以下、ここに子どもの独立が重なり、先日、Aさんに相談なく夫は仕事を辞めたと言うのです。現在、求職中ですが、Aさんはこれから夫とは一緒に暮らせないと思うようになりました。
これを聞いて、筆者は年金分割をする必要は無い、あるいはしない方が良いのではと思いました。なぜなら、年金分割は給料が多い方の年金記録を少ない方に移すことになるからです。
年金額は給料に比例しますから、Aさんの給料と夫の給料が同レベルなら、年金分割をするほどの差は無い、あるいは、Aさんの記録を夫に与えることになるかもしれないのです。この点は「年金分割のための情報提供請求書」で確認できますから、年金事務所に行って請求書を発行してもらうことをお勧めします。
Aさんは「夫が年金を受け取る65歳になるまで離婚を待つ必要はないのですね。私自身はこれからも仕事を続けていくので、いつでも離婚できそうです。気が楽になりました。」とおっしゃっていました。
Aさんは、経済的に自立していますから、一人で生活しても問題はなさそうです。離婚したほうが良いかどうかは、さておき、離婚するなら将来設計を考えることは非常に大切です。自分の年金を知り、そして、年金分割を考えるなら、事前の情報収集が必要。後悔しない道を歩んでいただきたいと思います。
公的保険アドバイザー
前田菜緒