令和5年度の年金はなぜ2種類?年金はどうやって決まるの?
令和5年度の老齢基礎年金の満額は67歳以下の人(新規裁定者)は66,250円/月、68歳以上の人(既裁定者)は66,050円/月です。このように令和5年度の年金額は2種類存在します。しかし、なぜ年金額が2種類存在するのでしょうか。そして、そもそも年金額はどのように決まるのでしょうか。公的保険アドバイザーが分かりやすくお伝えします。
令和5年度年金額の内容
令和5年度の主な年金額は以下の通りです。
老齢基礎年金満額 新規裁定者:795,000円 既裁定者:792,600円
障害基礎年金1級 新規裁定者:993,750円 既裁定者:990,750円
障害基礎年金2級 新規裁定者:795,000円 既裁定者:792,600円
障害厚生年金3級(最低保証額)
新規裁定者:596,300円 既裁定者:594,500円
遺族基礎年金 新規裁定者:795,000円 既裁定者:792,600円
新規裁定者とは67歳以下の人のことで、新規に年金を受け取る人を言います。一方、既裁定者とは68歳以上の人のことで、すでに年金を受給している人を言います。年金の受給開始は基本的には65歳ですが、なぜ新規裁定者が65歳ではなく「67歳」以下なのかと言うと、それは年金額決定の仕組みに理由があります。
新規裁定者の年金は、賃金の変動をベースに決定されます。年金の財源は現役世代が納める保険料であり、この保険料は賃金に連動して納められているためです。そして、その賃金に関する数値が2年遅れで出てきます。さらに、直近3年間の賃金変動率の平均を用いて年金額が決定されるため、新規裁定者とは67歳以下の人を言うのです。
一方、既裁定者は、生活水準が確保できるよう、物価の変動をベースに年金額は決定されます。
なぜ年金額が2種類存在するのか
このように新規裁定は賃金ベース、既裁定者は物価ベースと、年金改定のベースが違うため、今年の年金額は2種類存在します。とはいえ、これまでは年金額は1種類しかありませんでした。では、なぜ今年は2種類存在するのでしょうか。
それは賃金変動率が物価変動率より低い場合は(賃金<物価)、新規裁定者、既裁定者とも賃金ベースで年金を決定するという別の年金改定ルールがあるためです。
例えば、令和4年度は賃金も物価もマイナスの変動率でしたが、賃金のマイナスの方が大きかった(賃金<物価)ため、新規裁定者、既裁定者とも賃金変動率をベースに改定されました。そのため新規裁定者、既裁定者とも年金額は同じでした。
保険料を負担する現役世代の賃金が上昇していないのに、物価が上昇したからといって年金も上昇させるわけにはいかないですからね。給付と負担のバランスを考えたルールとなっています。
このような背景から、今までは新規裁定者、既裁定者とも同じ年金額でしたが、令和5年度は物価変動率が2、5%、賃金の変動率は2.8%で、賃金変動率の方が高かった(賃金>物価)ため新規裁定者は賃金変動率をベースに、既裁定者は物価変動率をベースに決定されました。
なお実際は、これら変動率に令和5年度のマクロ経済スライドや年金額に反映されなかった令和3年度と4年度分のマクロ経済スライドの調整率が加算されています。
マクロ経済スライドとは、将来世代の年金給付のために、今の年金支給を少し節約するシステムのことです。賃金や物価が上昇しても、年金給付にお金を使うのではなく、節約して将来のために残しておこうというわけです。
令和5年度は賃金変動率や物価変動率が上昇したため、年金額は上昇しましたが、節約システムであるマクロ経済スライドが加味されたため、メディアでは「実質目減り」と報道されました。
年金額はルールに従って改定されている
年金額が改定されると「減った」「増えた」という視点から報道されます。特に減った場合は「また減ったのか」と印象を持たれそうな報道がなされます。そして「少子高齢化だから年金は減っていく」「年金は減る一方」のような認識も持たれがちです。
しかし、年金はルールに則って決定されているだけであり、少子高齢化だから減ったわけでもなく、年金支給する財源がないから減ったわけでもありません。年金制度を維持し、年金受給世代にも現役世代にも公平な制度であるためのルールに従って改定されているだけです。
年金制度は複雑ですから、理解が難しい部分もあると思いますが、間違って解釈をして、将来の備えを誤ってしまったり、無駄に心配しすぎてしまったりすることは避けたいものです。そのために年金額が上がった、下がったと言う前に、年金制度維持のための改定のルールがあることは知っておきたいですね。
公的保険アドバイザー前田菜緒